RE!

<短編>

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▼夢主について(必読ではありません)

並中2年の一般生徒。

 

雲雀

  • 子猫

     繰り返し見た映像をよそに、キョーヤはこちらへ手を差し出す。「ほら」 言い出したのはわたしなのに、より乗り気なのはキョーヤの方だ。脱力する長い指を両手で迎えつつ、思い返すのはこれもまた何度も聞いたナレーション。「猫の甘噛みは愛情表…

  • アルバート坊やの条件づけ実験

      この部屋に運び込むダンボール箱はこれで最後だった。一階からここまでを何往復したか数えるのも忘れてしまうくらい大変だったけど、ひと足先に着いていたキョーヤが振り向いたときには疲れなんてどこかに飛んでいってしまう。「キョーヤ、これ…

  • 仮説

    ※「ぬいぐるみ」のifルートです。  細かな記憶はないが、横寝に最適な環境を手に入れたのだと満足したことは確かだった。だがそれの成立に人柱を要したことはまったく記憶の外にある。 犠牲になったのがだったことは、必然かつ最良の結果。 …

  • ぬいぐるみ

      ここまでのあらすじ 雲雀恭弥「好きで横向き寝をしようと思ったことがない」 あらすじおわり 「違和感がある。あお向けに慣れてるからなのか」「そんなときにはこの子!」「君か。頼もしいね」 お褒めのことばとともにキョーヤは…

  • βカロテンの摂取元

     「トリックオアトリート!」 今日ようやく会えた彼女は、微笑みながら小さな手を差し出してきた。 そうしてこちらは、自らの手のひらを見下ろす。次いで机上。引き出し。 結論は。「ない」「えぇ……」「持ってない」 正確には、待ちくたびれ…

  • 黒歴史

      所定の様式に記入、提出。受理されたら終わり。本来はこんなものだ。「結婚なんてただの仕組みだよ」 発言には若干、遠縁の式に長時間出席して疲れたという直近の不満が込められていた。隣に座っていつも通りおむすびを楽しんでいるが目を丸く…

  • 叫ぶ

      あの光景が今も脳裏に焼きついている。 空の教室でひとりしゃがみ込む。恐怖のあまりこぼれたらしい悲鳴は、すわ敵対勢力の襲撃かと反射的に得物を取り出さずにいられないほど震え。 助けを求めてこちらを見上げた目は泣き出しそうに潤んで、…

  • 境界線

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  • 今日は食べないガーデンバース

    ★はじめに★この短編はガーデンバース設定です。pixivで作者様が世界観を説明してくださっています。(ピクシブ百科事典もあり) 本文へ    はさみを使わないと、と思った。 早くしないと死んでしまうかもしれない…

  • ヤマタノオロチ

      今日のおやつは大きなみかん。ひと房分けてあげるとキョーヤはとても気に入って、結局ほとんど食べてしまって。最終的にはいくつだったっけ。わたしの「あーん」に応えてくれるのが嬉しくて数えるのを忘れていた。 なんてことを思い返している…

  • 突発ガーデンバースーR

    ★はじめに★この短編はガーデンバース設定です。pixivで作者様が世界観を説明してくださっています。(ピクシブ百科事典もあり) 本文へ    この家に花生みが生まれたとき、正確にはその子どもが花生みだとわかった…

  • 通信教育

     「かわさき」「うん」 いくらか頁はめくられて。「あまさき」「尼崎」 次は遡って。「……かやがさき」「茅ヶ崎」「うううんんん」 キョーヤは地理でも強い。わたしが知らない場所も知っているどころか行ったことまである。「日本全国どこにで…

  • 袋小路

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  • 突発ガーデンバース

    ★はじめに★この短編はガーデンバース設定です。pixivで作者様が世界観を説明してくださっています。(ピクシブ百科事典もあり) 本文へ   小さなころは、毎朝お母さんといっしょに数を数えながら摘んでいた。友だちにほめられ…

  • ブランケット

      一見、普通の女の子だ。しかしその頭へかぶせたブランケットでは、柔らかい髪と同じ色をした三角の耳がひょこりと立っているのはごまかせない。「」 呼びかけると、みー、とも、ぴー、ともとれるいかにも子どものものとおぼしき返事がある。も…

  • 相思相愛

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  • 握力

      グラウンドの真ん中で女子生徒が派手に転んだ。傷口を洗うためだろうか水道へ向かう足取りはふらつき、友人らしいもうひとりの女子があわててついてくる。窓からながめるこちらとの距離が縮まってくると彼女がひどく泣いていることに気づいた。…

  • 共謀罪

      胸ポケットから丸い目の羊が顔を覗かせる、なんともによく似合うデザイン。真冬用を持ってきたと張り切って着替えたパジャマは、見た目にも柔らかな淡いピンクをしている。もともとふんわりとしている彼女のシルエットをさらに円くするのは、楽…

  • ペパーミント

      いつもいっしょに歩く通りを、ひとつ右へ曲がるとすぐにアイスクリームのお店がある。すぐそばの公園にはベンチが置いてあって、少しくつろぐにはちょうどいいところ。 そんな話に興味を引かれたのかキョーヤは案内を任せてくれた。そして今、…

  • ふわふわ

      ふと目を覚ましたときには、ベッドの足元に寄せていた毛布が胸のあたりまで覆いかけられていくところだった。ほんの十数分ばかりの睡眠の先にも、視線を少し巡らせればすぐそこにがいる。少し驚いた目は、こちらを認めるとほころんで柔らかく細…

  • ブラックスワン理論

      キョーヤがアクセサリーの類をつけることは珍しいと思っていた。しかも、こんなにごつごつした意匠は。「僕のじゃない。押しつけられたんだ」 そんな事情を聞かされたら一応は納得。だから、こうしてわたしが触ってながめて遊んでいても問題な…

  • 飴も鞭

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  • オセロ

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  • 突発RPGーR

     ※異世界注意    自慢の角は大ヤギのよう。自慢のしっぽは悪魔のようと皆が恐れる。それもそのはず、わたしは全魔族がひれ伏す偉大な魔王だ。 この前だって、無謀にも挑んできた勇者たちを雷で丸焦げにして追…

  • 突発RPG

    ※異世界注意  愛用の軽鎧と、王から賜った剣。ふたつがあればひとりぼっちの冒険もこんなに心強い。 王国の人間を震え上がらせる恐ろしい魔王がいるというこの城は草原の先、岩山に造られている。冷たい空気を振り払って、薄暗い大理石の大広間…

  • やっと優位に立てる と思ってたゲームブック

    ★はじめに★ この章は選択肢リンクを選んで先のページを読み進めるタイプです。次へ #0 ここまでのあらすじ は手錠で遊んでいたらうっかりキョーヤを捕縛してしまった! 謝り倒そうと思ったけどむしろこれはチャンスかも? あらすじおわり「何で嬉し…

  • 監禁ゲームブック

    ★はじめに★ この章は選択肢リンクを選んで先のページを読み進めるタイプです。次へ #0「。君は」 深刻な視線を正座で受け止めるしかない自分が情けなかった。開け放たれた窓を閉じ、重ねてカーテンもぴたりと閉め切った手は次いで、ベッドの上で固くな…

  • クマ

      衣装ケースを開け冬物を当たろうとした手は、偶然それの裾を引っかけていた。ハンガーごと持ち上げてみるとわずかな重みがある。ブラウンの毛皮、白いお腹、丸い尻尾。 去年家族に買ってもらった大好きなテディベアのキャラクター、その着ぐるみパジャマ…

  • 処刑

     ふたつ、とその口は言った。わたしを捕獲連行したあげく手錠で棚に括りつけた犯人が床に膝をつくと同時に、低い雷鳴がお腹にまで響いてくる。 合わせられた視線はそれに揺らぐことはなくて。「ふたつも君は間違いを犯した。その償いをしてもらうよ」「許し…

  • 教育的指導

     応接室の整理を手伝って早一時間。備品棚に収められていたガムテープやメジャーを元に戻そうとして気づいたのは、奥に押しやられるようになっている一冊の本だった。思い切り腕を伸ばしてなんとか取り出すとそれは記録写真の冊子で、卒業アルバムとは違った…

  • 熱がふたつ

     頭。背中。両脚。お腹。腰。 全部、痛くて熱かった。 寝返りをうって隣を窺うことすら苦痛に思えて、こぼれそうになる声をやっとのことで飲み込む。わたしをタオルケットでお包みにした相手はやっぱり目を覚ましてしまい、突然身じろぎし出したこちらを寝…

  • 微熱のおかげ

    「あー、あー、あー」 高く、低く、高く。どんな声も鈍い違和感とともに掠れるのを聞き逃されることはなかった。わたしの前髪を上げる手は冷たい。それとも、わたしの額が熱いのかもしれない。「夏風邪」「そんなぁ」「扇風機のつけっ放しのせいだ」「ちゃん…

  • 僕がドラキュラ

     ※流血注意 やや荒々しく閉じられた応接室のドアの手前には苦虫を噛み潰したような表情がある。のんびり靴を脱いで腰かけていた姿勢を正してしまうくらいにはびっくりして、とっさにことばが出てこない。「今度は諸悪の根源を咬み殺してきた」 吉報とは裏…

  • 君はドラキュリーナ

    ※流血注意 朝から授業そっちのけで保健室に閉じこもったのをどこから察知したのかやはり追手は現れた。カーテンを閉め切った内側へ躊躇いなく侵入してきた彼は両手で死守している口元のハンカチをいともたやすく剥ぎ取って。「……犬」「違いますー!」 猿…

  • たぬき

      じっ、と真剣に注がれる視線が瞼越しにでもわかる。すぐにでも起き上がって驚かせてみたいのを堪えて寝たふりを続行した。……とはいえさすがにソファーを丸々占領して横になるのはやりすぎたかもしれない。 おやつタイムも過ぎた、ちょうどうっとりする…

  • 罠になんて負けません

    「指定の薬品全てを服用後、12時間の待機」 唯一のドアにかけられたプレートにはそれだけが書かれている。寄りかかった白い壁から眺めていた文字は数分前から確実にぼんやりと滲み始め、今ではただの図形と誤認しそうなほど溶け果てていた。 そして、ここ…

  • ソルビトール

     冷蔵庫の中、飲料をまとめるポケットに収まるものはだいたい決まっている。麦茶、緑茶、ミネラルウォーター、アップルジュース。赤々としたりんごのパッケージを鷲掴みにするたびに、ここにも彼女を思わせる場所がさり気なく増えたことを実感する。特段好み…

  • 「眠たい」 のそのことばは一種の暗示だと言っても過言ではない。 育ち盛りなのか単なる寝不足なのかこの子はどこででもうとうととする。その頻度が、僕の目の前だと若干多くなるのは喜ぶべきことだろうか。「寝るのかい」 こくりと頷くのはのベッドの上だ…

  • アイスコーヒー

    「真冬だよ」 そのことばに「それなのにどうしてアイスを頼んだの」が隠されているのがありありとわかるのが嬉しい。カフェの一番奥、午後の日差しが入ってこないこの席だととくにそう感じるのは仕方ない。としてもアイスコーヒーじゃないといけない理由があ…

  • 奇妙

     肺が痛む。 洋館らしきものの廊下を当てもなく走っている。逃げるために。どの窓もワインレッドの厚いカーテンでぴたりと蓋をされて外の様子は伺い知れない。ただひとつ、空気を伝って飛び込んでくる低い雷鳴のほかには。 辛うじて明かりが落ちるビロード…

  • 難攻不落

    「キョーヤが大好き」 はそのひとことをくれたのと同じ口で春もみかんも映画も大好きと言う。「君の大好きに序列はあるの」「ないよ。全部好き」 ためらいがちに背中に寄りかかってくる温度に嘘はない。それでも気分が晴れないのは「いちばん」という前置き…

  • カウンター

      キョーヤが寝ているのを見ることは少ない。というのはわたしが先に寝ることが多いから。 つまりこれは貴重なチャンスで。「もしもーし……?」 わたしの後ろで、ベッドに腰かけて本を読んでいたはずがいつの間にか横になって目を閉じている。雑誌を放っ…

  • 突発センチネルバース

    ★はじめに★この章はセンチネルバース設定です。現在様々な設定が適用されているバースですが、本サイトでは以下の定義でいきます!***・センチネル…五感のいずれかまたは全てが異様に発達した人間。後述の理由でガイドに執着する。・ゾーン…センチネル…

  • 身の程知らず

     校舎にガラスの割れる音が響いたのは日の沈みかけた時刻だった。次いで聞こえる怒号、男子数人のものがだんだんと近づいてくる。キョーヤは疎ましげに扉の向こうへ視線をやったきりで慌てた風でもない。わたしと正反対だ。「え、え? 何だろ、喧嘩かな」「…

  • 性癖ゲームブック

    ★はじめに★この章は選択肢リンクを選んで先のページを読み進めるタイプです。次へ   #0 秋も深い夜、ふたりでこたつに入ってみかんを食べるのはもはや恒例行事と化し。こんな調子でテレビもラジオもつまらない年末年始まで過ごせ…

ベル

  • ピカレスクノベル

     足を止めたのは、まじまじと観察するためだ。真夜中に連れ出された経験など一度もないだろう、ひと目でそうとわかる彼女の小さな不安が心地よかった。 効かない夜目のままこちらの袖を摘む指が白く浮かび上がる、新月の夜。「ヤク中ってわけじゃねーな、肌…

  • I,

      あちらは文庫サイズの本と辞書。こちらはホットミルクとクッキー。それらを乱雑に並べたテーブルの向かいに座り込み目を瞬かせるだけの姿は、およそ切っ先を向けるにはそぐわなかった。こうして握っているのがどこでも手に入る安物のバタフライナイフであ…

  • ときめき

     微かに甘い香り。たん、と硬いものへ打ちつけるのにかき消されそうな淡い水音。ナイフから顔を上げて首を傾けてみれば、キッチンに立つ彼女はまたも包丁を降ろしていて。「リンゴは昨日食べたろ」 やけに手こずっている。リンゴではなくカボチャでも相手に…

other

  • まがい物

    「おいしいマシマロ、あったかい紅茶、可愛いぬいぐるみ」 どれ? と、差し出されたものに何の興味もわかなかった。テーブルの上のすべてが本当においしくて、温かくて、可愛いのだとしてもわたしにはわからない。「君のこと大好きなんだ」 笑うこの人は誰…

  • どうあがいても逃げられないゲームブック

    ★はじめに★ この章は選択肢リンクを選んで先のページを読み進めるタイプです。次へ #0 ここまでのあらすじ 某ガチャでエロゲ産としか思えない魔法を手に入れてしまった! しかも遊びに来ていた先のディーノにうっかりぶつけてしまった! あらすじお…

 

モノストーンの周波数 <雲雀><長編:完結>

 

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01

  • ※はじめに

    1.この長編はセンチネルバース設定です。センチネル=五感の鋭さとその反動の両方をあわせ持っている。希少ガイド=センチネルの負担を和らげる力を持っている。超希少基本的にこの2点の設定を中心としています。本編へ※詳細は以下!現在様々な設定が適用…

  • 数日後、とある部屋

     このところ、応接室に入った後は後ろ手にドアを閉める変な癖がついてしまった。万が一にも廊下を通りがかる誰かと目を合わせたくなくて、そう答えた時のキョーヤの目は楽しげだった覚えがある。ちょうど、今この瞬間のように。 カーテンを閉め切った、ふた…

  • 奇妙が始まる

     ほとんどが浮き足立っていたクラスメイトたちはそれぞれの部活や委員会へ出かけてしまった。ひとり残されたのは好き好んでのことではなく、心情としてはむしろ苦行に近い。先ほどまでは冷や汗が出ていたほどには、深刻に。「この……自分には絶対にできない…

  • 「音がした。だから来た」 そのことばを、背中で受けた。キョーヤの声は、弱々しいというより痛みを押さえつける反動で震えている。「ノイズのような、覚えのない……けれど、海の音だった。今も……聞こえないのかい」 最後はわたしに向けられたひとことだ…

  • 羽化と孵化

     扉の隙間から、曲がり角の影から、机の下から。わたしの完璧なスニーキングをキョーヤは全て見破った。放課後の今は、こうして応接室の真ん中に座らされて隠れることもできない。ところでこの座布団はどこから持ってきたんだろう。「あの館から持ち出したん…

02

  • 訪れないラハイナ・ヌーン

     図書室には、なんとか庁から配られたパンフレットが数部置いてある。「センチネルとガイドについて」 当時はニュースで大々的に報じられた直後だというのに、周知活動が下火になっていた時期もある。ほとんどが他人事だと思っていたから。けれどこの裏面に…

  • 傷口に赤い糸

     それは前置きや世間話が挟まることなく、単刀直入のお手本のような流れだった。「お前、ガイドなんだよな?」 かたん、と、入り口の方から軽い物音。ひとりが図書室を出ていく姿が視界から消え去る。 無音。何も、返せなかった。 ガイドであることは秘密…

  • 百年続くもの

     手を引かれて帰り道を歩くのを邪魔するものは何もない。それなのに考えがまとまらなかった。頭の中が真っ白になるとはこういうことだ、そう実感できるほど、思考は文字にも絵にもならない。 ボンディングって、何なんだろう。 センチネルとガイドの間に結…

  • 静謐を破って

     喉元から離れていったのが温もりだとわかった瞬間、目を開いていた。いつの間にか眠っていたのか、それとも意識があいまいになっていたのか、どちらなのかはわからないけれど。 キョーヤは隣に横たわって、身を乗り出していた。その背後には隙間から黒を透…

 

03

  • 今は今日、あの場所へ

     平野臣。 木島美冬。 村田佑真。 西園茉奈。 紘永名雪。 ほぼ等間隔に頁が破られたノートの中に確認できたのは五人の名前だった。ひとりでひとつの頁を独占して、まるで声を大にして自分の存在を主張するように紙面いっぱいに。ひとりめの彼が記したよ…

  • 方舟より

     大波小波、と楽しく歌える状況ではなかった。座ってもいられないほどの揺れに、体は客船の壁から壁へと振り回される。真っ暗な空からは刺すように鋭い雨が降り注ぎ、ダメ押しに凍てつくほどの暴風がひっきりなしに吹きつけていた。 まともに呼吸もできない…

  • かたむすび

     ずっと昔、家の電話口がとんでもない音量だったことを思い出す。確か友だちが駅から携帯電話で連絡を取ってきた日のことだった。こちらの設定がよくなかったところに、あの子のはきはきとした声、さらに通過していく特急電車の車輪が酷く振動する地獄のよう…

  •  ガイディングがどれだけ続いたのか、時間の感覚はなかった。熱くて、怖くて、悲しくて、互いにひとりで苦しくて――けれど、キョーヤがキスしてくれるのが嬉しいから少しだけ平気。そればかりを考えて。 目を開けるとそこは暗い室内だった。キョーヤが見上…

04

  • ルーシーのこと

     ホームの真ん中に掲示された時刻表を眺めるわたしの後ろを、軽い足音が通り過ぎていく。視線を向ければ、可愛いピンクのリュックを背負った小さな女の子が普通電車に乗り込むところだった。 耳を覆うのは子ども用の小ぶりな、それでいて本格的な角張りをし…

  • 七人のセンチネル

     通学路を歩く横を通り過ぎていったのは、たまに新聞の隅に広告を出している老舗の建築会社の車だった。角張ったロゴをつけた白いバンは目の前でゆったりと左折し、学校の敷地に入っていく。 もしかすると、キョーヤが言っていた改修の業者かもしれない。サ…

  • メタモルフォーズ

     霧が降りるのに似た小雨の音に、いつの間にか目を覚ましていた。 一瞬だけ自分がどこにいるのかを掴みあぐね、そうして温かいこの場所は鹿鳴館の一室だと思い出す。開いたカーテンの向こう側からはほの青い夜明けの色が差し、明かりを落とした室内での柔ら…

  • チューニング八三一

     金曜日、真昼のホームには数人がぱらぱらと立っているだけだった。先ほどの出来事の実感はすでに手を離れ、ふわふわとして現実味を失うわたしもそのうちのひとり。イヤホンをつけて日陰でじっとしている彼らと同じ電車に乗って、次に降りる駅でモノレールに…

  • ※おまけ

    ※本編中の元ネタ紹介などのページです。   作品漫画「多重人格探偵サイコ」大元。絵がスタイリッシュ。完結済み。私にはほとんど思い出せない90年代の空気が好き。でもこんなにも退廃的だったのかってくらい荒んでる 明るい未来を描きようが…

 

Pas・Mare<雲雀><長編:完結>

▼夢主について(必読ではありません)

性別不詳ロリショタ夢主。

 

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01

  • 01

    「おいで」 深夜の学校の屋上に、自分の声だけが響く。少し離れたところにいたちゃんはそれを聞くなり嬉しそうに頷いて歩み寄ってくる。「楽しそうだね」「だって、いつもは夜ふかしはだめって言うのに。今日はどうしていいの?」「流星群が見られるって聞い…

  • 02

    「お願い」 真摯だがたどたどしいことばは、声を発するのに慣れていない印象を受けた。ぎりぎり中学生に見えなくはない歳のころとしては、違和感が拭えない。 そして名前、年齢、所在。身元の何もかもがわからないと言われたらますます怪しい。見たところ、…

  • 03

     風紀委員長直々に応接室に連行された人物Aの姿を目撃して、かつ正確に覚えている者は少ない。人間はあまりにも信じられない光景を見ると、自身を守るために脳が記憶を改ざんするようにできている。 それもそのはず。並盛中の秩序の権化が、人型をしたもの…

  • 04

     愛する街は荒んでいた。喧嘩も略奪も絶えることなく、子どもたちはひたすら怯えるか、原因である大人たちに続くかの二択しか与えられない。 それが嫌だった。だから、変えようと思った。 今日この日のように、誰もが何の心配もなく魚釣りにでも興じるよう…

  • 05

     雲雀に怒られた。 そんなことを聞いてしまえば好奇心より恐怖心が勝る。これまでに咬み殺された思い出の数々は走馬灯のようだ。それがまさかちゃんにまで降りかかるなんて。 雲雀が獲物を狙う表情は冷たい無表情か獰猛な笑みと相場は決まっている。それを…

  • 06

     彼女がちゃんに寄るのを止める者はいない。それをいいことに、ためつすがめつその姿を観察し倒し――結局ハルは残念そうに首を横に振った。「ハルも知らない制服です……」「そっか……」「それにしてもとってもキュートです! ちゃん、ぎゅーってしてもい…

  • 07

    「先生たちがいっぱい運ぶんだって」 何を、と問えばこんなの、と両手を広げて四角をした大きさだけを示される。何もわからない。 屋上のコンクリートにぺたりと座り込む姿は、どこから調達したのか上下ジャージで統一されている。埃っぽいところに行くのな…

  • 08

     ちゃんがわけもわからず持っていた、通信の形跡がない携帯。あまりにも怪しいので、そのまま電源を落としておくことにした。 代わりに渡したのは、型落ちが過ぎてところどころ水色の塗装が削れた小型機。PHSと呼ぶのだと草壁が詳しい機能とともに得意気…

  • 09

    「まだ寝ないのかい? もうこんな時間だけど」「眠たいけど、気になることがあって」「何かあったの」「キスって何?」「そのことば、どこで聞いた?」「ロンシャンくんが言ってたよ。好きな子にやってもらうんだって」「ふぅん」「どこいくの?」「急用がで…

  • 10

    「それでは、やはり彼らは取引をしているというのね?」「強奪だよ。すでに決まった契約を一方的に破棄しようとしてる」「そんな……」「荒稼ぎの手としては上品な方だね。殴り倒して根こそぎ持っていくわけじゃない」 エレナがうつむくのを、アラウディは意…

02

  • 01

     部屋に行ってみれば案の定、まだちゃんは起きていた。明かりを落としたまま、カーテンを開けてしとしとと降り続ける雨を眺めている。ベッドの上で頭から毛布を被った姿は大きな饅頭のよう。「眠れないの」「……眠たくなくなっちゃった」 後ろ手に扉を閉じ…

  • 02

     とてつもなく機嫌が悪い。朝からそんな自覚がある。 草壁は用件を済ませるなりそそくさと屋上から出ていった。顔にも態度にも出したつもりはないが、伝わっていたらしい。それを不思議がる立ち位置のちゃんは、今は不在だ。 ――何もかも、あの子を連れ出…

  • 03

    「隣町に行ってくる」 当然のようにちゃんはついて行きたがったが、当然のように止めた。ワイシャツの袖口を摘む丸い指は、まだ離れないまま。 応接室の外では、校区内での待機を命じた委員たちがばらけ始めている。目撃した生徒たちが逃げを打つような威圧…

  • 04

    崩れた壁、暗い部屋、差し込む外光。一見、先ほど骸と相対した部屋と何ら変わりはなかった。目の前でちゃんが眠る以外は。「……」這いつくばったまま顔だけ上げるが、声が出せない。ほとんど感覚のなくなった体では、それが痛みか渇きか、吐いた血なのか、ど…

  • 05

     ちゃんが言いつけを守らないことがある。それを目の当たりにするのはこれが初めてだ。「まだちょっと痛いんだよね? それって元気じゃないんだよ。だからいつもみたいに動いたらだめなんだからね、お医者さんも言ってたもん。おつかいなら任せて、ぼくお買…

  • 06

     エレナの語る理想を、マリーナはにこやかに頷きながら聞いている。ふたりはひとの目をよく見て話す。だから、そうではない者が傍から見ればまるで熱心に見つめ合っているかのようで。 おまけに、その舞台は屋敷の庭に据えられた白いテーブルときている。降…

03

  • 01

     本人の代わりに退院を喜んだのは草壁とちゃんだった。「ほんとに迎えに行かなくていいの?」「いいよ」 こんなに短い通話でも、ちゃんの声が弾んでいるのがわかる。その背後では、草壁が普段の三割増しの勢いで委員に号令をかけるのが聞こえてきた。「今日…

  • 02

     午後の運動場に響き渡ったのは聞き慣れた声。けれど切迫して、いつもののんびりとしたそれとは真逆の色を帯びた。「助けてー!」 ――事情を知っていなければ追手を再起不能にしていたところだ。目の前で俊足を披露するちゃんは、ホームベースのそばで柔軟…

  • 03

    「綺麗だね、これ」「あげる」 突如押しつけられた、やけに意匠のごつい指輪はちゃんの好みらしい。今は親指に収まっているがまるでサイズが合わない。「どの指にも大きいみたい」「君がつける指輪なら僕が贈るよ。それはおもちゃにしたら」「鳥くんと遊べる…

  • 04

    「当然だよ。あの子を連れ出すはずがない」「そーか。それならいいんだ」 もうここが日本のどの辺りなのかと確認するのさえ煩わしい、そう思えるほどには移動と戦闘を重ねた末。ディーノの今日最後の問いはちゃんのことだった。「一応は儀礼に則った戦いだか…

  • 05

     よく眠っている。 ボンゴレのいざこざが一応は収束した後も、ちゃんはしばらくひとりで眠るのを嫌がった。夜中にベッドに入れてやって、こうしていっしょに朝を迎えるのも何度目かわからない。やたらと身動きが取りづらいと思えば両腕で抱きつかれているの…

  • 06

    「本当にひとりで平気なの」「平気だよ。キョーヤだって行かなきゃいけないんでしょ、次はどこだっけ」 身支度を整えるちゃんの顔色はよくない。けれど口調にそれが滲むことはなく、あくまでいつも通り振る舞うのに乗ることにした。眼鏡の向こうにある瞳はと…

  • 07

     昼下がりの屋敷に荒々しい足音が響く。珍しく何歩も先を歩くGは目を吊り上げて振り向いた。「これで何度目だ? 数えてるか?」「いや、全然。そう怒るなよ、重要な話は聞いてくれただろう」「それにしてもだろ」 Gの立腹を宥めつつ、理解できないでもな…

04

  • 01

     この前、ちゃんがオレの家に遊びに来たんですよ。イーピンといっしょにお絵描きしてたっけ。オレは京子ちゃんとハル、あと獄寺くんと宿題やってました。そうそう、後から山本も合流してすごく賑やかで! なのにランボはベッドでずっと寝てたんですよ。朝早…

  • 02

     与えられたのは、作戦行動関連を除いたほぼ全権だった。目の前のコンソールひとつで施設のあらゆる情報を把握し操作できる。その延長が区画形成だった。機密保持、防炎措置……とにかく適当な理由をつければ防火シャッターの要領で施設内へ一時的な壁を設置…

  • 03

    「あの装備、何であんなに変な形してたんだろうな」 手にしているのはちゃんから預かった匣だった。後で返す約束はしているものの、一応は兵器と位置づけられているものを持たせておくのは気が引ける。「推測は立てられるぞ。お前、戦闘中にふざけた格好のや…

  • 04

     君は、君に優しいものにだけ囲まれていればいい。 いつかちゃんに言ったことばだ。やたらと群れる草食動物たち、兄貴面をする跳ね馬……歓迎したくはないが。そして近くで見守る草壁、よく懐く小鳥。その並びには僕もいる。それが当たり前だと思っていた。…

  • 05

     ちゃんが風紀財団のエリアを去ることはなかった。草壁と同じ権限を与え、ボンゴレ側と自由に行き来できるようになったというのに。理由を尋ねても「何となく」とらしくない答えばかり返ってくるのは、本当に明確な考えがないのだろう。 受け入れられたとは…

  • 06

     了平に連れられてボンゴレにやってきたクロームが目を覚ましてからというもの、ちゃんは彼女にくっついていることが多くなった。まだぼんやりとすることが多いクロームに対し、話しかけたり途中で隣で眠り込んだりととにかくそばにいる。「さすがのお前も寂…

  • 07

     使用人、出入りの庭師、構成員、などなど。広間に小さく人だかりができている理由はすぐにわかった。自室から出たその瞬間に苦笑してしまう。 聞こえてきたのは軽やかに跳ねるピアノの音、それに柔らかく重ねられる篠笛の音。……をどこか引っかかりながら…

05

  • 01

     えぇと、と何ともか細く今にも潰れそうな声は入江のもの。こちらへ、あちらへと行き来する眼鏡越しの視線が鬱陶しい。こんなことが起こらなかったところで今は何もかもが神経を逆撫でする要素にしかならないだろうが。 それもこれも、すぐそこにいる僕の空…

  • 02

    「僕は可愛いらしいね」「うんうん、可愛くてかっこいい……」ちゃんが過ちに気づいたときには遅かった。きっかり一分くすぐり倒されて畳に沈むのを見てようやく気が済む。「僕は可愛い?」「キョーヤは……世界でいちばんかっこいい……」「いい子だね。その…

  • 03

     バニラ、とちゃんは呼んだ。それが自身の匣兵器の名前だと胸を張るのは、その兎がバニラのような色をしているからだろうか。呼ばれた本人は昨日も今日もすやすやとそれは深く眠っている。「可愛いねー。あ、ふたりも同じくらい可愛いよ」 騒ぐロールとヒバ…

  • 04

     並盛に残った草壁からの連絡が切れても、オープンにしたままの回線は戦闘中の者やサポートに回った者たちの声を拾い続けて黙ることはない。入江に渡された通信機器はちゃんも装着しており、しかしよくわからないまま目の前で繰り広げられる展開を凝視する間…

  • 05

     よろよろとシリンダーに歩み寄りちゃんは底を見下ろした。人間ひとりが十分収まるほど大きなそれの中では、海藻のように揺蕩う黒く太いケーブルが数本伸びている。先端は点滴の針に似ているが繋がる先はない。 その透明な水槽の向こうに長身の男が立ってい…

  • 06

    「……街が元通りになってる……」「逆だよ。僕たちが帰ってきたんだ」 学校の屋上で、ちゃんはフェンス越しにぐるりと三六〇度の景色を見渡した。破壊の跡も戦闘の影もない、少し前まではごく当たり前だった光景を目に焼きつけるように動かない。 ここに欠…

  • 07

     波の音が夕日とともに降り注ぐ時刻、この光景をいちばん喜ぶだろう人間はここにはいない。 二度と現れてはくれない。「あの子の任務はほとんど完璧だった。街に溶け込み住民と親しくなり、情報網を広げては相手の出方を探って。けれどこればかりは」 音も…

06

  • 01

     先ほどまで恐縮しきっていた草壁は今は観念して保健室のベッドにうつ伏せになっている。それを横から神妙な面持ちで見守っていたちゃんだったが、やがて気合いのかけ声とともに小さな握り拳を振り下ろした。ワイシャツの下の背筋が微かに強張るのがわかる。…

  • 02

     その目が次に捉えたものに対し微かに驚き、見張られるのは一瞬だけだった。感情を押し殺すどころか発生させないことに慣れきっているらしいアラウディは、表出した動揺を自覚しているのかどうかも怪しい。「君の名前は」「ぼくは、ちゃんだよ」 おずおずと…

  • 03

      ちゃんに関するデータはこの時点では見当たらなかった。隣のパネルで白蘭と同じ操作をしながら確認してみたものの、彼が関連するものを削除していた様子はなかった。某国の軍備の横流しを示唆する内容とその売買地点のこと細かな記録が蓄積されたデータベ…

  • 04

    「猫ちゃん」「スフィンクス」「こけし」「ツタンカーメン」「三角」「ピラミッド」 この日最後の上演だった会場から出た足で向かうのはエジプト展、こうなることは大体予想がついていた。足取り軽くレプリカの前を行くちゃんのすぐ後ろを歩きながら訂正を入…

  • 05

      ちゃんも白蘭も、彼と僕の声が似ていると言った。――それを一分の隙もなく否定したい。そう思えるほどアラウディの声は仄暗い色をしていた。あの男とちゃんがいっしょにいるのはほとんど決まったことと考えていいだろう。あそこから目標を取り逃がすよう…

  • 06

     「答えて。あの子がいなくなってしまったのはなぜ」 それは尋問の様相を呈しているにも関わらず脈絡のない唐突なものだった。ちゃんに彼の言う人物との面識はない。何より子どもに向けるにはあまりにもそぐわない、平坦で色のない音。「冷たいね」 ――そ…

  • 07

      次いで駆けつけたのは先ほどアラウディに成り変わられた職員だった。目を覚ました直後に施設の床が抜けているところを発見し、慌てて被害者がいないか探しに来たと言う。 そして当然、彼の通報によって白蘭は病院送りになった。「また入院かなぁ。あそこ…

  •   彼の元から走り寄ってきたのを反射的に胸に抱きとめ、しかし思考はいつまでも追いつくことはなかった。確かに倒れたはずの白蘭が、心の底から安堵した柔和な表情を向けているのがなぜなのかも知る由はない。森に差す昼の光の中に佇む場面を見ることになる…