ヤマタノオロチ

 

 今日のおやつは大きなみかん。ひと房分けてあげるとキョーヤはとても気に入って、結局ほとんど食べてしまって。最終的にはいくつだったっけ。わたしの「あーん」に応えてくれるのが嬉しくて数えるのを忘れていた。

 なんてことを思い返しているともうすぐ下校の時間になる。いつも通り屋上でお昼寝を楽しむキョーヤからそうっと離れて、ひとりで応接室に戻ってきた。

 部屋の主がいない間にどうしても確かめたいことがある。

 目の前にはテレビでたまに見かける、社長が座るような大きくてどっしりとした椅子。ここには誰もいないけど、なんとなく物音を立てないように慎重に――腰を下ろした。

「……んー……気持ちいいかも……」

 そのとたん、少し硬めのクッションがしっかりと背中を支える。椅子自体が大きいうえに高さがあるから、足は床につかない。これが普段キョーヤが味わっている感覚。キョーヤは身長があるから余裕で足がつくだろうけど。

「どことなくロイヤルな感じー」

 いつもより視界が高い。それに引きずられたようにテンションも高まり、デスクに手をついてくるくると回転をかけてみる。ゆっくり横に流れていく窓の景色はきれいな青空。

「みどり」

 を、ふと人型が黒く切り取った。

「えっ」

 多分、逆光で。やや強引に椅子が止められたときにはすでにそれが誰なのか確信があった。すぐには飲み込めないだけで。

 よくよく見つめた正面には笑顔が――いかにも楽しそうな笑顔がある。というかいつの間にか立ちはだかっている。つよい。

「なんで、どうやって窓から入ってくるの?」
「屋上から伝ってきた」

 運動性能がとんでもないことになっているのはともかく。

「惜しかったね。あとひとつ食べてたら僕はもっと熟睡してた」
「あっあっ、家に帰ったらりんごがあるよ……」
「もう遅いよ。今からは、みどりが僕を置いていったことを追及しないといけない」

 ひじ置きにやっていた両手に、そうっと重ねられるのも両手。わたしのものよりとても大きな、キョーヤの。どうあっても跳ねのけられる未来がない気がした。

 きっと、このまま囚われたらいいことが起こると心のどこかでわかっているから。

「あわわわわ」
「……それにうってつけのところに座ってるね」

 サイズがまるで合わない椅子に、わたしはまるで埋もれるかのよう。見上げる先にはキョーヤだけ、そんな場所で。

「……キョーヤ」

 椅子の関節がきしりと鳴った。

 影がゆっくりと降りてくるのを、目を閉じて迎える。

 

ランダム単語ガチャ No.4360「ヤマタノオロチ」