ガンダムSEED

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短編

▼舞台設定について

ドミニオンだったりバウエルだったりフレイが合流してたりしてなかったりします。

▼夢主について(必読ではありません)

地球連合の技術官。非番の日に叩き起こされて前線配属になった。悲しい。でも三人と仲良くなれた。ミリアリアと同じピンクの軍服です。

 

  • ロレムイプサム

      いつの間にか引き結んでいた拳をやっとのことでこじ開けた。操縦桿を握る、壁を殴る、普段から酷使している手はのそれのような柔らかさからはかけ離れている。「オルガの声」 諸々の情報を削ぎ落としたことばは、しかし感情だけは伝わった。空…

  • ティーンエージャー

      ここまでのあらすじ「この時間帯は待機室のビデオログをつける! お前たちはどうせまともに行動記録なんてつけられないからな!」 あらすじおわり 正確には「仮につけたとしても活用に値しないものができあがる」だが。論理的な思考とその出…

  • 出来損ない

      保護具、サイレンサー、時間制限。邪魔なものをすべて取っ払っても弾は的の外周そのまた外の壁面へそれていった。この銃の整備不良も疑ったが、ついさっき同じものを手にしていたは下手なりに命中はさせている。人型をしたターゲットの肩や腕あ…

  • シャノンの最終機械

      IFFと同等の技術は連合でもザフトでも当たり前に使われている。混戦において間違って味方を攻撃することがないように、各機体から信号を常に発信しておくのがオーソドックス。その信号は自軍の機体に搭載された兵装を制御するから突発的な誤…

  • 生活指導

     「君なら経皮吸収くらいわかるだろう? たとえ定番品だろうが彼らの体内に入り込んだら相互作用を引き起こす可能性は十分にある。つまり慎重に慎重を重ねた確認が必要になるわけで」 と懇切丁寧に説明する私の心労などつゆ知らず彼らは興味深く…

  • コップの中の嵐

      シャニにベッドを占領されたは、ふてぶてしくあお向けで寝そべる男のすぐそばで申し訳程度に腰かけていた。向かいに無人の二段ベッドがあるにもかかわらず。「どこで寝ても変わらないんじゃないの」 入口で身を乗り出すと、センサーに引っかか…

  • グレーゾーン

      騒ぎの中心にいるふたりはガタイのいいツナギの男たちだった。雑な仕事しやがってだのタダ同然の金払いで偉そうにだの、職人同士らしい言い争いは次第に掴み合いに発展していく。タイミングがいいやら悪いやら、このドックには乱闘を止めようと…

  • ホットコーヒー

      人を、看取ったことがあるという。今となっては幸福なことだろうに、それを話すのはぽつぽつと力なく。「一度血圧が下がり始めたらだめなんだって。指先からどんどん冷たくなって……わたしが握ってたらそのときだけは温かくなったけど」 の両…

  • 有刺鉄線

      蝉の抜け殻がひとつ、むき出しの地面の色に溶け込むようにぽつりと落ちていた。正確には、ただの枯れ葉色をしたかたまりを見つけただけ。それが生き物が残していくものだと知ったのは少し後だ。 今思えばあれは、硬そうな爪と虚ろな目。触れて…

  • おぼえがき

      が持ち込んだ私物の中には卓上カレンダーがあった。観光地の写真が印刷された色鮮やかな――だが古めかしさも感じる代物。実物を見るのはこれが初めてだ。「予定なんて端末にまとめてなかったっけ?」「そうだけど、せっかく当たったから」 く…

  • フレーム

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  • ストーク

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  • 調味料

     「薄い」 テーブルの隅に寄せてあったスパイスの容器をつかんで、なんの味もしないスープにぶちまけた。向かいで同じ食事をしていたの表情がにわかに引きつる。「もう三回目だよ。辛くない?」「まだ足りないくらいだ。ずっと前からどんどん味つ…

  • ニードル

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  • ハンバーグ

     「そこいらの兵士と、僕」 クロトはふたつを並べた。「はどっちが強いと思う?」 それはきっとMS戦も白兵戦もないのだろうとなんとなく予想がついて。「クロト」「そうだよなー。というかここで暇してる僕らこそ艦で一大戦力になってると思わ…

  • 悪あがき

     「長い話、嫌いなんだよ」それは十頁ほどの物語にも当てはまる。以前オルガの持ちものから適当に気まぐれに取り出したペーパーバックを、数分とたたずに放り出していたから(もちろん怒られていた)。「文字を読むの、苦手?」「というか、それも…

  • 心臓

     「いっつも腹空かせてるオッサンが店で飯食ってるやつ」 そんなピンポイントすぎる特徴だけでも思い当たる作品が数個はあるから、あの国からライブラリに登録されているドラマは幅が広いと思う。クロトが暇に任せて見たのはそのなかのひとつ。「…

  • トップシークレット

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  •   そこらじゅうで騒がしく働く人間たちの中に、若い顔が混じり始めたのは艦が海上演習から戻ってからだった。新しい軍服に身を包む彼らは、真剣な顔で機体や機器について説明を受けている。 その、説明する側のひとりには見覚えがあった。この通…

  • やばい

      刑務所や病院の一部の部屋では、壁や床を柔らかい素材で覆っていると聞いたことがある。受刑者や患者が暴れて体を打ちつけ、けがをしないようにという対応だとか。それならいっそこの光景のように、拘束してしまったほうがましだと思うのは当事…

  • ないものねだり

      その日は町に出る気がなかったから砂浜を歩いていた。適当に時間をつぶして、帰投時間ぎりぎりまでこの手ぶらをごまかすつもりで。 波の音のほかには、ときおり甲高く鳴く海鳥の声だけがある。それらすべてを聞き流しつつ流木のそばに座り込ん…

  • 頭からっぽ

      艦が海上へ出てはや数日。せっかく運び込んだ試験段階の支援兵器の評価は、予報の外からやってきた雨天や強風のために満足に進んでいなかった。そのせいでMAやMSとの連携の確認も同様に滞っているどころか問題点が増えていき。工数を増やし…

  • 蜂蜜

      奪われたのは動きと呼吸だった。 いつの間にやら寝返りを打っていたのか、視界にはベッドの天板ではなく壁が広がっている。唯一自由な視線を下げ、体を縛りつけるようにお腹に巻きついているものを見下ろした。その正体にうっすら気づいている…

  • 過去

      小さなころのある日、突然に死を理解した。きっかけはテレビ番組か、絵本か。そんな細かいことは忘れてしまったけど、母に泣きついたのは覚えている。「お母さん死んじゃやだ」 死なないわ、そう言って優しく頭をなでてくれる母の膝にいつまで…

  • 救援

      三人が殴り合いの大ゲンカをしたなどという話も記録もない。そんなきっかけになるほどのかかわり合いすら少ないくらいだ。それなのに、この光景はどういうことなのだろう。 部屋の床に転がるふたり。 こんなことを目の当たりにして平静でいら…

  • ヘッドショット

      連合の、どこかの基地では研究が進んでいるらしい。薬物投与とカウンセリングとその他もろもろで痛覚をコントロールする技術だ。その処置を受けた後は、たとえばケガをすると体のどこかが痛いとはわかるが、それだけ。痛みの上限がとことん低く…

  • エンドロール

     「わたしの家は火葬だった。でも土葬のところもあるみたい……」 思い出しながらの発言はあいまいに揺らいだ。そうさせたオルガは頷きながらペーパーバックへ視線を戻す。いつも静かに本を読む彼がこちらへ声をかけるときは、だいたいその頁の上…

  • アンバランス

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  • まだら

     奇妙な声。 幻聴だとわかっているのはいいことなのかどうか。 ことばの形を持っていない、輪郭のあいまいな響きは絶えず脳裏に直接叩きつけられていた。不快さとともに耐えられないほどの冷気が背筋を伝って全身へ広がっていく。 医務室のベッドに横たわ…

  • 犠牲バント

     「じゃあ次、必殺技といえば?」 わたしの質問にしばしの間を置いてそれぞれの答えが部屋のあちこちから返ってくる。「……アバンストラッシュ」「超究武神覇斬でしょ」「波動砲しかないな」「オルガのは技じゃなくて武器だろ。判定」「うーんヤ…

  • 四天王

     「悪の幹部っていいよな」 言い出したのはクロトだった。おのおの適当に暇を潰している(ひとり業務に追われている者もいる)なか振り向くと、彼はいつもとは異なる携帯ゲーム機を握りしめている。「新しい支給品か?」「いやの私物からパクった…

  • ホウセンカ

      外の騒がしさは夕闇が深まるにつれてますます大きくなっていった。それに比例するように灯っていたライトの眩しさが映えていく。甲板から眺めていると、客は現地住民だけでなくこの艦からの者も混じっているようだった。彼らは私服にそぐわない…

  • 先制攻撃

     前々回のくすぐり。 前回の猫だまし。 そして今回、ペンライトでの目くらまし。 目の前にはナイフがある。 その向こうには喜びを隠しきれない唇が。「レギュレーション違反でしょ!」「実戦にレギュレーションも何もないだろ!」 続く正論がとどめにな…

  • 隔絶

     薄い肩を引き寄せてすぐさまドアをロックした。未だ状況の全てを把握できていない色をしている目が、冷たく仕切られたこちら側で瞬く。「お前が悪いんだよ」 もっと、もっと他に伝えたいことがたくさんある。それなのに出てくるのは責めることばだけだ。こ…

  • トラウマ

     同じ訓練を受けていた若い男がいた。そいつは五度目の投薬の後に血を吐いて死んだ。それを仕方なく監督官のところに運んだ。部屋に戻ると手の甲に血が飛んでいた。 そんな、三十秒にも満たない話。はベッドの上で黙って聞いていた。無表情の下には微かな同…

  • 痛み

     度々見る光景、それも窓の向こう。夢ではないと確信できたのはつい先日のことだった。 薬の効力が切れ、部屋への通信は切られ、神経系が焼き切れ――これは錯覚だが。掠れる視界と薄れる意識の中で、聞こえるはずのない涙声。 経過観察する者しかいない窓…

  • トマトソース

    「すっごくいい匂いがしたんだよ」「理由はそれだけ?」 じとりと睨む目線が緩むことはなく。「……すっごく腹減ってたんだよ」「言いたいことはそれだけ?」 態度が軟化することもない。「うっそだろがここまで怒るのかよ……?」「さすがにこれは怒るでし…

  • イフのさいはて

     迫ってくる機体も、揺れるコクピットも、全ては仮想空間でのできごとだった。シミュレーターの中でが殺されることはない。傍から見れば真剣な彼女の挙動は、しかし恐怖に突き動かされてのものだ。上手くできなければ艦の皆もろとも体を蒸発させながら死んで…

  • アイライン

     気分よく自室を出ようとしたところを阻止されたのを、通路の誰も目撃することはなかった。押し入ってきた三人の誰かがロックをかければ、この部屋の様子を伺い知ることは不可能。そのせいか、三者三様の余裕が表情に浮かび。「さてと、確かめさせてもらうぜ…

  • イフの骨組み

     ※原作沿いで進めたらこうなるだろうなという妄想です。 ***「地球の両親はお亡くなりに、そうして君は軍へ」 どこか得意げにしている意味がわからないと、そう態度で示すことしかできない。理事は表面的には友好的な笑顔のまま画面を見つめ続けていて…

  • ネオンライト

     せっかくの外出許可を、シャニが大喜びすることはなかった。かといえば艦に閉じこもっているでもなく、わたしを連れて港町の繁華街へこうして踏み込んでいる。 ほとんど日の落ちた時刻に。「すぐ門限になっちゃうね。急いで行こうか」「……時間制限のこと…

  • スケジュール

      ※注意:モブの倫理観皆無 *** 君の頭痛は典型的な眼精疲労。改善には目を休ませることが必要ですよ。そう教えてくれた医務官は、おしまいにフィルター加工がされた眼鏡を譲ってくれた。そんな彼は今日、寄港のついでに本部に向かって艦に…

  • ヒップホップ

      端末から国営のライブラリに接続すれば、メジャーな映画や音楽ならすぐにでも探し出せる。ひと昔前のものがほとんどだけれど。 そして今、その端末は哀れ人質にされて。 「早くミーティングルーム来いよ! さもなきゃここをダンス…

  • 伸びしろ

     人差し指から、手のひらへ。少し硬い両手で包んで、輪郭を確かめるように軽く握り締めて。  始めること数分、シャニは飽きることなくわたしの右手で遊び続けていた。靴を脱いでソファーへ正座したときは何かと思ったけれど、いざOKした後もよ…

  • 模範解答

    「お前はこういう訓練受けてたのか?」「射撃と体術、重力下・無重力下のMSやMA操縦……規定時間ぎりぎりだけど」「最低限ってことか」 予想通りだとオルガが笑う後ろでは、人型の的の急所に綺麗に数発入っている。袖が煤けているのは、もしかしたら実弾…

現パロ短編

▼簡単な設定。ここをタップ

オルガ:3年。文系。帰宅部。
クロト:1年。体育会系。帰宅部。
シャニ:2年。理系。帰宅部。
アリーシア:2年。帰宅部。
四人で同じ寮に住んでます。
その他こちら

 

  • 朝もや

     「ガキ」「ガキオブガキ」「キングオブガキ」 誰がどれを言ったのか。それはともかく、わたしがこんなにも一生懸命説明しているのに一斉にこの反応。夜中に全員叩き起こしたこちらに非があるとはいえあんまりだ――と立場を棚に上げて悲観してし…

  • シャッターチャンス

      私は常々考えている。報道とは皆へ公平に情報を提供する神聖な活動だ。知らないままでは、受けられるはずだった利益を受けられない。隠れたところで悪事を働く輩を暴かなければ犠牲者は増え続ける。そのような悲しい事態を未然に防ぐことだって…

  • アクセント

      今日の帰り道は長い。「それでね、今度は駅向こうの……」「あー、新しくできたとこ! そこにしましょう」 目の前をが歩いているが、その隣に他人がいるとやけに話しかけづらい。傍から見れば十歩ほど離れてはいるだろう距離は、こちらが意図…

  • 男の子

      オルガがみんなの中で少しだけ早起きなのは、このヘアワックスのためだった。小さなケースから適量を掬って手のひらに伸ばして前髪へ――の一連の動きは手慣れていて、まじまじ観察する間もなく終わってしまう。ひとりで肩を落とすわたしを、オ…

  • まんまる

      朝いちばんからの小競り合いは半分集結したらしい。もう半分は現在進行中だ。丸めた雑誌を装備してクロトを追い回していたオルガは、続けてもうひとりの獲物を探し回っている。「おいシャニそっちどうだ?」「典型的な冬型の気圧配置だって」「…

  •   差し出されたものにはとてもよく見覚えがあった。「はい。差し入れ」 これで三度目だったと思う。さすがに気づき始めた違和感は、けれどクロトがさっさと教室を出ていってしまったから保留になった。「ふたりで食べようよー」 呼び止める声は…

  • スペシャリスト

      メープルシロップとハチミツ。カットしたバター。すでに用意された濡れぶきん。まだ出番ではないらしいバニラアイスは冷凍庫の中。混ぜ終えられたホットケーキミックスは微かに甘い香りがする。 カウンターには、温かい完成品が鎮座する円くて…

  • デバフ

      額を拭っていくタオルはほどほどに温まっていた。先ほど頭の下にねじ込まれた枕が冷えているのとは正反対。 脳裏に滞っているようだった不快感が薄れていくのを感じながら重い瞼を開くと、ベッドのすぐそばにが膝をついている。その手に握って…

  • 防犯ブザー

      今週は全国ナントカ協会の防犯キャンペーンらしい。お昼休み直後の校内放送は、強烈な眠気に負けたわたしを含めたほとんどの生徒がまともに聞いていなかった。とはいえ、そんな日だったという印象づけには成功したはずだ。 わたしたちの手元に…

  • 恐怖症

      シャニが指差す先ではスラックスの裾が土で汚れていた。いら立ちまぎれに脱ぎ捨てたスニーカーも同じく。手入れが面倒だと思うと、追撃に蹴りの数発でも入れておけばよかったと若干の後悔が頭をもたげた。そうせずに帰ってきたのは単純に暑かっ…

  • 歪んだ愛

      やたら細いネックピロー、とは違うらしい。「アイスリングって呼ぶんだって。んー、冷たい」「そういや最近ちらほら見かけるな」 冷凍庫から出したてのそれはガチガチに冷えて、さっそく身につけたの首を冷やしにかかる。涼しげな水色も相まっ…

  • アイスクリーム

      寝苦しいまどろみのなか、景色より感情より鮮明に思い出したのは感覚だった。 甘くて、冷たくて、やわらかいもの。 それが何だったかまでは思い出せない。 ***「味があるなら食べものでしょ」 テーブルにつくクロトはスナック菓子を頬張…

  • 場外乱闘

      冷やした後はひとくちサイズにカットして、オーブンにかけたら出来上がり。冷蔵庫のスペースをほとんど占領してしまうボウルの中身は、アイスボックスクッキーの生地だ。飲みものを取り出そうとしてそれに気づいた彼らは、ほのかなバニラエッセ…

  • 対人ゲーム

      食事も家事も済ませてしまった雨の休日、そして大好きな趣味もたまには食指が動かないときだってある。そんな条件がそろった日は満場一致の「暇」がおのおのの口から飛び出るのが恒例行事だった。わたしが小さくあくびをこぼしてしまう横で上が…

  • 0カロリー

     久しぶりに寝過ごし、シャツに袖を通しながら部屋を出た瞬間から異変は表れていた。開け放たれたの部屋……は、おそらく換気のために窓も全開にしているから置いておくとして、問題はもう片方の全開。クロトの部屋も無人を晒していた。彼よりも寝坊をしたこ…

  • 怪獣映画

      やりすぎた。詳しく言うなら集中しすぎた。毎度のことだけど夢中になってのめり込んでいる状態からどうやって我に帰ればいいんだろう。手にしたゲーム機をソファーの肘置きに避難させたのを目ざとく見つけたクロトは即座に勝ち誇る。 とっさの…

  • カルネアデスの板

      当面の安全は確保できたと安堵し、しかし振り向けばもうひとりが追いつこうとしていた。ぱたぱたと早足で廊下を突っ切ってきた表情は、現状を飲み込むごとに絶望感に覆われていく。かわいそうは一割――もないくらい、対して愉快は九割といった…

  • ネギトロ軍艦

     「あいつら今どのあたりだ?」「ついさっき校舎出たってさ。シャニはいったん部屋に戻って、はまっすぐこっちに来るって」「ったく時間かかりすぎだろ」「先食べ始めちゃおうよ。僕たまごー」「茶でも入れるか……」「そういえば、俺たちのことき…

  • カルテット

      寝たふりをするとどうしても目元に力が入る。自覚はあっても続けなくてはいけないシチュエーションがあるだなんて思ってもみなかった。まぶた越しの暗がりに突然灯された暴力的なほどまぶしい照明は、薄目を開けて周りの様子をうかがうことすら…

  • 棍棒外交

      寮に対してはあらゆる噂がまことしやかにささやかれている。やれ精鋭部隊の養成所だとか、やれ夕方に銃の訓練をしてるだとか。 もちろんぜんぶでたらめだ。寮にいるのはただの特待生たちで、銃声はおそらくクロトとが窓全開でシューティングゲ…

  • 正攻法

      彼女は廊下で転びそうになったところをあの教師に助けられたらしい。その場面に居合わせなかったことは痛いが、幸いでもあった。 がどんな表情で彼を見上げたのか知りたくなかったから。「ムラクモ先生ってかっこいいよね」 どこか嬉しそうに…

  • やわらかい

      朝食の時間、といえるタイムリミットを超えてもクロトは降りてこなかった。とふたりで部屋に様子を見に行くと、なにやら小さく叫ぶ声がある。彼女は微かに眉を寄せるが。「え、え、どこか痛いのかな……」「食われる! 食われる!」「何やって…

  • アイリスアウト

      屋内に逃げ込む手段は封じられ、申し訳程度の庭に据えられた倉庫の影に身を隠した。息を整える間も、ドアの開閉する音が止まない。 こんなことになったすべての元凶が何だったかを思い出す暇もなく、唐突に足元に撃ち込まれる一撃をぎりぎりで…

  • 地獄絵図

      久しぶりに聞いた通知音は、あまり機能していないメッセージグループへの着信だった。この寮の四人全員を巻き込むほどの用事が起きることは少ないからこそ、その用件がやけに気になる。面と向かって言えない相談だろうか。 デスクに置いていた…

  • 忽然と客の消えるブティック

      大昔、そのテレビ番組を寮の全員で見たとシャニは主張する。大昔が何年前なのかがあやふやなうえ、わたしには全く覚えがない。ゲームをしながらとかで片手間に見ていたのかもしれない。「三人組の女が……アジアのどこだっけな。どっかの国に旅…

  • 自白

    「ネタは光ってんだよ!」「ネタは光らねーよ」「お寿司かな?」 この刑事もどきたちは一枚岩ではないらしい。向かい合う三人のうち、真ん中のボキャブラリーに不安があるチビはリビングの机をけたたましく叩いてキッチンの方を指さした。 そこには空のプラ…

  • くすぐる

     大昔の映画をテレビで見ていた。 放送が終わってふと隣を窺うとが涙ぐんでいた。 なぜかぐっと来た。 以上。「うわやべーやつだ」「は?」 暇に任せて何か面白い話をとねだった張本人から飛び出たのはど直球な暴言だった。クロトはドン引きを隠さない表…

  • 朝ごはん

     惨状だった。 うつ伏せで呻く。 を両腕と片脚でホールドしてピクリともうごかないシャニ。 を引き剥がそうとしたのか手を伸べたまま大の字で口を開いているクロト。 全員が寝ている。多分。「何だこりゃ」 床に投げ出されていたスマホを蹴飛ばし、よく…

  • アリアドネの糸

     少しの身じろぎの後、隣に覚醒の気配があった。わざと本体の音量を上げておいたのが効いたらしい。ふたつ隣のシャニはカーテン越しの朝日にも負けず熟睡しているが。「……クロト?」「ん」「何でここにいるの……」「起こしに来たけど止めたんだよ。で、く…

  • 飽和

     誰よりも早起きなが起きてこない。そんなことが起こるのは稀であり、平日休日を問わなかった。 その原因も、決まっている。 朝食を取る気にもならずミネラルウォーター片手に二階へ戻り、鍵のかかっていない部屋へ押し入った。 聞こえるのは掠れた、どこ…

  • チョコチップ

     棚に並ぶパッケージのほとんどが詐欺だと思う。「これとこれ、あとそっち。止めとけな。こんなにチョコ入ってないんだよ」「そんなに試したの?」「そんで全部裏切られた」「悲しい」 ドラッグストアの片隅で肩を落とした学生は数え切れないはずだ。は最近…

  • 羽毛布団

    「あっつー、暖房効きすぎじゃないかー?」「そんなことないよ、寒いくらいですー」 一階から上ってくる足音の方へ言い返しながら、カーディガンの裾を整える。どうせ昨日のように寒い寒いと言いながら三人揃って全速力で学校から走ってきたに決まっているの…

  • からあげ

      深夜二時、部屋を出た。やわらかスリッパは足音を簡単に隠してしまえる。 目的はキッチンの冷蔵庫。最低限の明かりだけスイッチを入れるとやっぱり薄暗い。「お腹すいたなー……」 この時間、ホットミルクなら罪悪感も薄い。それでもだめなら…

  • 殺気立った目

     一歩。 三歩。 駆け足で六歩。 聞き間違いではなかったらしい。振り返らなくたって足音が重なっているのがわかる。夕方の影法師は運悪く背後へ伸びて。 気づいてしまっては外に留まる気にもならない。お行儀悪く早足のままスマートフォンのタップを繰り…

長編

▼必読

各短編とは別の世界線です。

 

    一大スペクタクルな大冒険を書きたいんだけどな難しいな がんばってます