四天王

 

「悪の幹部っていいよな」

 言い出したのはクロトだった。おのおの適当に暇を潰している(ひとり業務に追われている者もいる)なか振り向くと、彼はいつもとは異なる携帯ゲーム機を握りしめている。

「新しい支給品か?」
「いやアリーシアの私物からパクった」
「これ片づけたら絶対返してよね」
「そんなえらそーな口きいていいの? 艦長にチクってやろ、誰かさんが娯楽を持ち込んだあげく僕に盗まれてます管理能力に難ありでーす」

 クロトに苦情を投げつつ端末から離れられないアリーシアは置いておき、その私物とやらを覗き込んだ。四体のモンスターが、クロトが操作しているヒーローらしきキャラに襲いかかっている。

「何だこれ」
「RPG。こいつらが旅して世界を救うんだってさ」
「くっだらねえ」
「でもさ、こっちの怪物四天王はなかなか好きだよ僕。強くてやりたい放題」

 そんな小説を読んだことがなくもない。主人公が、故郷を焼いた魔王とやらを倒しに行く物語。仲間との結束はともかく、全員で魔王の軍勢に立ち向かうところは燃える要素だったのを覚えている。

「それって僕たちみたいじゃない? なんたって強いってのがいいよね!」
「そういやちょうど四人か」

 待機室を見回してみる。相変わらずソファーをひとり占めして寝ているシャニ、半泣きで何やらデータを作っているアリーシア、そしてクロトと自分。

「僕はやっぱり器用型だよ。ハンマーと弓両方使えたら最強じゃん」
「でも攻撃が大振りだから回避すんの簡単っぽいな」
「えー? でもそうか、パワーの代わりに命中差し出すって王道だよな」

 何やらその道のゲーマーたちには共有された様式美があるらしい。

「オルガは何だろーな、最年長だからやっぱりリーダー? 攻守そろってるとかさ」
「わかってんじゃねえか」

 そう言われて悪い気はしない。シンボルになるような大剣とかを掲げたり。とりあえずこの集まりのうちの誰の下につくのも癪だ。

「面倒だが当然だな! お前らじゃ務まらねえ」
「んだよ俺たちと同じ階級のくせに……」

 掠れた反論は背後から。何が気にくわなかったのかシャニはのそりと起き上がり、その足でアリーシアの隣に歩いていく。

「シアまた調整押しつけられてんの」
「正規の担当が大佐の対応に回っちゃったんだから仕方ないよ……」
「どいつだよ大佐って。オッサンはみんな同じような顔してんだよな」

 寝ぼけ眼もそのままに彼女の作業を黙って見守り始めるシャニを、クロトはしばし観察していた。

「んーシャニはあれだな、緩急がとんでもねーの。普段はやる気ゼロだけどキレるとパワーアップするやべーやつ」
「は? それオルガにも当てはまるだろ」
「なんだケンカ売ってんのか? クロトだってそうだろうが!」
「三人ともだよ三人とも!」
「おうアリーシア俺をキレさせたな」

 折りたたみの画面の端を掴んで揺さぶってやる。めまいがするだの酔うだの軍人適性ゼロな発言が聞こえたので許しておくが。

「お前は四天王どころか序盤に出てくるやつじゃねえか。スライムとかゴブリンとか」
「それ作品によっては可愛くないやつ……」
「いやシアはそいつらに追いかけられて助けてーって言ってる村人A」
「なんだかんだ二人ともRPGのテンプレわかってるよなー」
「ねー」
「文句あんのか」

 不満げにするふたりの頬を指で突いてわからせてやる限りアリーシアの方は冗談でなく向いていないと思う。銃すらまともに使えもしないのだから。

 だがクロトには適切なポストに心当たりがあるらしい。

「アリーシアも典型的なやつだな。魔力だけめちゃくちゃ高い魔導士タイプ!」
「接近戦に弱いな。でも回復技持ってて残しとくとうざい」
「うざいはないでしょー」
「四天王からしたら生命線ってことだろ」

 シャニの説明に彼女はなるほどと考えを改めたらしい。

「じゃあちょっとは楽かも。積極的に戦わなくていいんだもの」
「楽できると思ってんの? 回復とか強化とかバンバン使ってもらうぜ」
「そのためにはみんなで精いっぱいわたしのこと守ってくれないとね?」
「図に乗りやがってこいつ」

 しばし留守になっていたキーボードでめちゃくちゃな入力をしてやる。悲鳴からの抗議からのしまいには「オルガのばかー!」まで言ってのけたアリーシアのリカバリーをしぶしぶ全員で手伝ってやりながら、それぞれ笑いが止まらなかった。

 このポジション議論は妙に現実での役割とリンクしているのに、とてつもなくくだらないのに、腹の底から楽しくて。

 ***

「っていう話をしたんだが追加戦士枠のお前はどう思う?」
「バジルール艦長、サブナック少尉たちがアリーシアを困らせてます」
「四人とも私の部屋に呼び出しておいてくれ。集合は十五分後だ」
「えっあの子もですか」

 驚くフレイと同じ顔を「どうしてわたしも!」とアリーシアも浮かべる様子が目に浮かぶようだ。トップの説教はかったるいがそれだけは楽しみだと、仕方なく命令を受けることにする。

 

ランダム単語ガチャ No.4830「四天王」