外の騒がしさは夕闇が深まるにつれてますます大きくなっていった。それに比例するように灯っていたライトの眩しさが映えていく。甲板から眺めていると、客は現地住民だけでなくこの艦からの者も混じっているようだった。彼らは私服にそぐわないぴんと整った姿勢のまま、けれど出店からの香ばしい香りと辺りの喧騒に笑みを浮かべているのだろう。
今日寄港したこの町では、ちょうど慰霊祭が行われるのだという。そんな話を始めてようやく反応があった。
「そもそもマツリって何すんの?」
やっと目を覚ましたかと思えば小さくあくびをして。シャニはアイマスクをジーンズのポケットにねじ込みながら寝ぼけ眼でこちらを見る。その姿勢は相変わらずソファーを占領して。
「シアは行ったことあるんだろ」
「慰霊とか、お祈りの行事っていうのもあるけど。とりあえずはみんなで集まってお菓子食べたり、踊ったり」
「楽しいのかよ」
「わたしは好きだったな。打ち上げ花火がいちばん楽しみで」
「花火? 何だそれ」
首を傾げて、シャニは一気に上体を起こすとソファーから降りる。
「艦から出ないなら面倒もないだろ。行こ」
「うん、急ごう!」
背中を押す手に促されて甲板に出ると、すでに開演時間は過ぎていたらしい。
突如現れたのは、管制塔よりなお高いところで弾ける光と、遅れてついてくる音。
わずかに肩を強張らせ、けれどすぐ平静を取り戻すシャニと同じ反応をしてしまう。今のは遠くで爆発物が爆ぜるのに似ていた。
「これ?」
「そう。きれいだね」
「きらきらしてんだな」
頷き、しばしシャニは夜空を眺めていた。星の輝きをかすませるほどに眩い花が開いては消えていくのを、静かに。
この町が戦火に晒されていたなら、こんなことはできなかった。
「慰霊か」
そんな安堵を遮って、ひとりごとの響きが隣で淡々と落ちた。
「これから散々殺しに行くのにな、この艦に乗ってる奴ら。俺たちも」
そのことばが嘲り笑うようで、ちらとシャニの横顔を盗み見た。
白けた、を通り越した無表情がそこにはある。
きっと彼も、あの群衆の中に軍人が混じっていることに気づいているのだろう。そしてこの地で笑顔を浮かべる人間のうち少なくない数が、コーディネーターへ敵意を向けていることも知っている。興味がないながら、それでも。
「あんなにでかいのにすぐ消えるんだな、花火って」
「だから写真にも残しづらいの。手元にあればいいのにね」
「大やけどだろ」
「ことばの綾ですー」
互いに小さく笑いながら、いつしか町中の目を集めているであろう花火から視線をそらしていた。
「意味あんの、あれ」
シャニの表情にはもう何もない。
灯ったものも、楽しいことも。
「……気休めになるよ。生きてるひとたちの」
「結局自分たちのためかよ。ま、そんなもんか」
ため息まじりの悪態が、滞ったかと錯覚するほど硬直していた空気を崩した。それはきっと、彼自身にも原因のわからない苛立ちのせいで生まれたもの。
こんな時間があったことも、いつか忘れ去られる。
「戻る?」
「……いや、まだ見てる。シアもいいだろ、ここにいろよ」
うん、とだけ返して、また空を見上げた。シャニもそれにならって。
「きれいだな」
わたしはこの光景をずっと覚えてる。そのひとことはかき消されるより前にお腹へ落ちていく。
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