せっかくの外出許可を、シャニが大喜びすることはなかった。かといえば艦に閉じこもっているでもなく、わたしを連れて港町の繁華街へこうして踏み込んでいる。
ほとんど日の落ちた時刻に。
「すぐ門限になっちゃうね。急いで行こうか」
「……時間制限のこと?」
「うん。家にいたころの言い方になってた」
「あぁ、お前少し前まで民間人だったっけ」
わたしの手を引くシャニは、きょろきょろと通りの両側を眺めるのに忙しい。辺りに子どもの姿はほとんどなく、いるのは大人たちばかり。居住地から少し離れたここは、お酒や服飾の大型店のほかにバーやキャバレーが何件も立ち並んでいる。
「行きたいお店があるの?」
「いや、何も。見てみたかっただけ……シア」
くい、と引き寄せられたすぐ後ろを、大声で謝りながらスクーターの男性がヨロヨロと通り過ぎた。
「街は夜でも明るいんだって、整備の奴らが言ってたから。シアは知ってたか?」
「少しはね。でも、こんなにすごいのは初めて」
きらきら、を通り越してギラギラとしている。誰彼構わない客引きや、あちこちから投げ出されるBGMが混じり合うさまは一種の迫力さえある。
わたしたちの目の前には、眩しいネオンライトが星の光を遮って鎮座していた。
「シア」
伸ばされる酔っぱらいの手を軽やかに引っぱたきながら、シャニは首を傾げるようにして覗き込む。
「怖いの」
「ううん。あんまり賑やかでびっくりしちゃった」
「そう。俺はこういうの、嫌いじゃないな」
――そうして天を仰ぐ横顔に、微笑がほころんでいるのを見た。
「綺麗だ。シアと来られてよかった」
「わたしも。シャニと歩けて嬉しい……」
シャニも――シャニこそ、こんな時間が二度とないかもしれないとわかっている。数日後ここを離れたら、艦は戦闘宙域へ向かうのだから。こうして戦いなんて関係ない場所でいっしょにいられるのは、最後かもしれないと。
そう塞ぎかける思考を止めてくれたのは、急かすように肩を揺する手。我に返って顔を上げれば、ふくれっ面がこっちを向いていた。
「なぁ、全然わかんないんだけど。この辺は何するとこなんだ」
「お酒飲んだり、ギャンブルしたり、踊ったり……?」
「疑問形かよ」
「だってわたしもよく知らないんだもん」
「じゃあ、適当に入るか。酒は興味ないけど」
満足げな顔のカップルが、ビール瓶をかたどった看板の前で話しているのをシャニは見ていた。幸いなことに、このお店の壁にはジュースやピザのポスターもぺたぺたと貼りつけてある。ダイナーのようだ。
「ぼーっとしてんなよ。時間は短いんだろ」
出かけてからここまで、シャニが繋いだ手を離すことはなかった。当然とばかりにわたしを連れて行ってくれるつもりなのが嬉しくて、力いっぱい握り返す。
「何食べよっか?」
「辛いやつ」
「それじゃあチキンかなぁ、スパイスがいっぱいかかったやつ……」
ささやかな階段を隣り合って駆け上がる数秒すら、忘れることはない。
ランダム単語ガチャ No.1762「ネオンライト」
