ティーンエージャー

 

 ここまでのあらすじ

「この時間帯は待機室のビデオログをつける! お前たちはどうせまともに行動記録なんてつけられないからな!」

 あらすじおわり

 正確には「仮につけたとしても活用に値しないものができあがる」だが。論理的な思考とその出力に問題があることは検出されて久しい。

「この時間帯って言ってもどうせ出撃がなけりゃ暇つぶししかしてねーよ!」
「無駄すぎ、何とかなんないの」
「空振りにならなきゃいいけどな?」
「なんだとぉ……」

 運用期間、投薬量・間隔による生体CPUの行動の変化を記録する。よりコストを抑えた次期生産に向けての貴重な資料だ。という説明は当然計画開始時に済ませた。本来必要ないが念のための措置。

 これに対する彼らの反応はそろってあのとおりだった。それはそうだけれどそれはそれとしてカンに障る。ズタボロの評価をつけて廃棄処分になるよう仕向けてやろうか――などという暗い考えは捨て、さっそく撮りためたデータの分析に取りかかることにした。

「ほんとに遊んでばかりだったらどうしましょう」

 デスクにつく部下たちの心配が杞憂になるよう願いつつ。

 ***

「てめぇは毎日毎日シャカシャカシャカシャカうるせぇんだよ甲板にでも出てけ!」
「オルガだって毎日ペラペラうるさいし」
「あのさぁ静かにしてくんない? 僕集中したいんだけど」
「そっちもだクロト! 1ミスの効果音が腹立つ!」
「知るかよメーカーに言えメーカーに!」

 この日は全員で掴み合っていた。投薬量を少なめにしていた期間と合致する。日常生活に支障をきたさない適正量の再検討が必要だろう。毎日乱闘されては面倒だし物騒だ。

 ***

「なんか寒くない?」
「その半袖どうにかしてからもう一回考え直せ」
「あっそうかぁ」
「……そういえばシアはくしゃみしてた」
「ほら常人は寒いんだよ今日はさ」
「この部屋のどこに常人がいるんだよどこに」

 この日はひとりだけ活動量が少なかった。気象記録ではそれほど大きな温度の変化はなかったので、筋肉量の差だろうか。全員に画一的な処置をしていては発達の個人差が大きくなるのは目に見えている。

 ところでシア、アリーシアという名前が彼らの話題に上がるのはこれが初めてではなかった。もの好きなことに三人へよくしている軍人は何名かいると聞いているが、そのひとりなのだろう。あまり干渉してこなければいいが。ついでに温かくしてほしい。

 ***

「なぁ聞いた? アリーシアが医務室でダウンしてるってさ!」
「へぇ。顔見に行ってやろ」
「ま、パッと行って帰ればいいか」

 思いきり干渉してきた、というか干渉を超えて追突だ。今の話のどこにテンションが上がる要素があったのか。それはともかくパッと行ってきていいわけがない、出撃に備えた待機時間なのだから。これでは命令違反だ――と頭を抱えたきっかり十分後には彼らは待機室に戻ってきていた。

 それからは、なにやらしんみりと口数が少なくなって。

 ***

「アリーシアもこっち来たらいいだろ。それ持ってんならどこででも仕事できるじゃねぇか」
「ほら、一応治ったばっかりだもの。風邪うつしちゃ悪いし念のため」
「ふーん、そういうもん?」

 この日は、彼らがこれまで一切興味を示さなかった壁面パネルをようやく使用した。どうやら通話のようで、相手の声は微かに拾えるのみ。だが響きからして例の女性兵だろうと察しはついた。

「そういうもん。明日にはそっち行くね」
「じゃあ、今日は早く切り上げろよ」
「うん」

 朗らかな返事。おのおの部屋中に散らばりながらも視線は彼女が収まる画面に向いていた。

 その表情は、今まで見てきたものとは異なる温度をしている。

 ***

 期間内のログはこれで最後。私は部下たちを振り返った。

「ひと通り観察し終えての所感は」
「割とおしゃべりしてましたね彼ら」
「……役に立たなさすぎる……」

 一連の計画にはささやかながら予算が割り当てられている。観察日記となんら変わらないこれらの記録をどう報告にまとめたらいいのか。

 ――他者とのコミュニケーションの質は改善の余地あり、とはしていい気もする。彼女といる彼らのようすから鑑みるに。

 

ランダム単語ガチャ No.6632「ティーンエージャー」