まんまる

 

 朝いちばんからの小競り合いは半分集結したらしい。もう半分は現在進行中だ。丸めた雑誌を装備してクロトを追い回していたオルガは、続けてもうひとりの獲物を探し回っている。

「おいシャニそっちどうだ?」
「典型的な冬型の気圧配置だって」
「テレビじゃねぇアリーシアの方!」

 たいして注視するつもりもなかった天気予報から視線を外すと、重箱の隅とばかりにあちこちを見回す姿がある。その凶相から察するにあのふたりがくだらないいたずらでもしたのだろう。

「あのガキども俺の炭酸まで飲みやがった!」

 想像以上にくだらない。

「買いに行かせりゃいいじゃん」
「とっくに行かせてる、クロトはな」
「じゃあシアは」
「見つけたらしばく、出てきやがったら知らせてくれ」

 足音荒く二階の捜索に戻っていくオルガは「お前も探せ」とは言わなかった。それはきっとこちらの姿を観察して諦めたからだ。

 シアがこのソファーに置き去りにしていったブランケット数枚で体を覆うと、うっかり寝入りそうになるくらい温かい。見た目が少々歪なまんじゅうになるくらいは必要な犠牲だ。

 動かせない左腕をながめる。というよりブランケットの中身を覗いてみる。

 あるのは閉じた目。

 完全にオルガの死角になっていたその中には、つい先ほどからシアが収まっていた。

「ちょっと追われてて、ついでに寒くって」

 とのたまいながらまんじゅうに潜り込んだうえにくっついてきた彼女は、自分の状況などすっかり忘れて眠り込んでいる。他人を抱き枕にするだけでなく暖まで取っていく図々しさで。膝を折り曲げて丸くなる姿はまるで猫だ。その表情は――言わずもがな。

 ちなみにテレビではちょうど、どこかの飼い犬を紹介する番組が始まっている。元気に遊び回ったあとに部屋のベッドで伸びる、小さくて白い毛むくじゃら。

「あいつらと変わんないな、お前」

 二度寝に最適なのは自室だが、動くに動けない。だったら流されてしまおうと思うほどにはこちらの眠気も限界だった。

 ソファーの隅に追いやられる心地いい重みを感じながら目を閉じる寸前、ブランケットの裾から出ているものに気づいた。丸くて柔らかそうなルームソックスのつま先。

 それがもぞもぞと動いたのを改めて覆い隠し、今度こそ意識を手放すことにした。シアがお仕置きを食らうまでの短い時間くらいは黙って大人しくしてやろうとぼんやり考えるのも、やがて形をなくしていく。

 

ランダム単語ガチャ No.1272「まんまる」