SEED現パロ短編

朝もや

 「ガキ」「ガキオブガキ」「キングオブガキ」 誰がどれを言ったのか。それはともかく、わたしがこんなにも一生懸命説明しているのに一斉にこの反応。夜中に全員叩き起こしたこちらに非があるとはいえあんまりだ――と立場を棚に上げて悲観してし…

シャッターチャンス

  私は常々考えている。報道とは皆へ公平に情報を提供する神聖な活動だ。知らないままでは、受けられるはずだった利益を受けられない。隠れたところで悪事を働く輩を暴かなければ犠牲者は増え続ける。そのような悲しい事態を未然に防ぐことだって…

アクセント

  今日の帰り道は長い。「それでね、今度は駅向こうの……」「あー、新しくできたとこ! そこにしましょう」 目の前をが歩いているが、その隣に他人がいるとやけに話しかけづらい。傍から見れば十歩ほど離れてはいるだろう距離は、こちらが意図…

男の子

  オルガがみんなの中で少しだけ早起きなのは、このヘアワックスのためだった。小さなケースから適量を掬って手のひらに伸ばして前髪へ――の一連の動きは手慣れていて、まじまじ観察する間もなく終わってしまう。ひとりで肩を落とすわたしを、オ…

まんまる

  朝いちばんからの小競り合いは半分集結したらしい。もう半分は現在進行中だ。丸めた雑誌を装備してクロトを追い回していたオルガは、続けてもうひとりの獲物を探し回っている。「おいシャニそっちどうだ?」「典型的な冬型の気圧配置だって」「…

  差し出されたものにはとてもよく見覚えがあった。「はい。差し入れ」 これで三度目だったと思う。さすがに気づき始めた違和感は、けれどクロトがさっさと教室を出ていってしまったから保留になった。「ふたりで食べようよー」 呼び止める声は…

スペシャリスト

  メープルシロップとハチミツ。カットしたバター。すでに用意された濡れぶきん。まだ出番ではないらしいバニラアイスは冷凍庫の中。混ぜ終えられたホットケーキミックスは微かに甘い香りがする。 カウンターには、温かい完成品が鎮座する円くて…

デバフ

  額を拭っていくタオルはほどほどに温まっていた。先ほど頭の下にねじ込まれた枕が冷えているのとは正反対。 脳裏に滞っているようだった不快感が薄れていくのを感じながら重い瞼を開くと、ベッドのすぐそばにが膝をついている。その手に握って…

防犯ブザー

  今週は全国ナントカ協会の防犯キャンペーンらしい。お昼休み直後の校内放送は、強烈な眠気に負けたわたしを含めたほとんどの生徒がまともに聞いていなかった。とはいえ、そんな日だったという印象づけには成功したはずだ。 わたしたちの手元に…

恐怖症

  シャニが指差す先ではスラックスの裾が土で汚れていた。いら立ちまぎれに脱ぎ捨てたスニーカーも同じく。手入れが面倒だと思うと、追撃に蹴りの数発でも入れておけばよかったと若干の後悔が頭をもたげた。そうせずに帰ってきたのは単純に暑かっ…

歪んだ愛

  やたら細いネックピロー、とは違うらしい。「アイスリングって呼ぶんだって。んー、冷たい」「そういや最近ちらほら見かけるな」 冷凍庫から出したてのそれはガチガチに冷えて、さっそく身につけたの首を冷やしにかかる。涼しげな水色も相まっ…

アイスクリーム

  寝苦しいまどろみのなか、景色より感情より鮮明に思い出したのは感覚だった。 甘くて、冷たくて、やわらかいもの。 それが何だったかまでは思い出せない。 ***「味があるなら食べものでしょ」 テーブルにつくクロトはスナック菓子を頬張…