SEED現パロ短編

場外乱闘

  冷やした後はひとくちサイズにカットして、オーブンにかけたら出来上がり。冷蔵庫のスペースをほとんど占領してしまうボウルの中身は、アイスボックスクッキーの生地だ。飲みものを取り出そうとしてそれに気づいた彼らは、ほのかなバニラエッセ…

対人ゲーム

  食事も家事も済ませてしまった雨の休日、そして大好きな趣味もたまには食指が動かないときだってある。そんな条件がそろった日は満場一致の「暇」がおのおのの口から飛び出るのが恒例行事だった。わたしが小さくあくびをこぼしてしまう横で上が…

0カロリー

 久しぶりに寝過ごし、シャツに袖を通しながら部屋を出た瞬間から異変は表れていた。開け放たれたの部屋……は、おそらく換気のために窓も全開にしているから置いておくとして、問題はもう片方の全開。クロトの部屋も無人を晒していた。彼よりも寝坊をしたこ…

怪獣映画

  やりすぎた。詳しく言うなら集中しすぎた。毎度のことだけど夢中になってのめり込んでいる状態からどうやって我に帰ればいいんだろう。手にしたゲーム機をソファーの肘置きに避難させたのを目ざとく見つけたクロトは即座に勝ち誇る。 とっさの…

カルネアデスの板

  当面の安全は確保できたと安堵し、しかし振り向けばもうひとりが追いつこうとしていた。ぱたぱたと早足で廊下を突っ切ってきた表情は、現状を飲み込むごとに絶望感に覆われていく。かわいそうは一割――もないくらい、対して愉快は九割といった…

ネギトロ軍艦

 「あいつら今どのあたりだ?」「ついさっき校舎出たってさ。シャニはいったん部屋に戻って、はまっすぐこっちに来るって」「ったく時間かかりすぎだろ」「先食べ始めちゃおうよ。僕たまごー」「茶でも入れるか……」「そういえば、俺たちのことき…

カルテット

  寝たふりをするとどうしても目元に力が入る。自覚はあっても続けなくてはいけないシチュエーションがあるだなんて思ってもみなかった。まぶた越しの暗がりに突然灯された暴力的なほどまぶしい照明は、薄目を開けて周りの様子をうかがうことすら…

棍棒外交

  寮に対してはあらゆる噂がまことしやかにささやかれている。やれ精鋭部隊の養成所だとか、やれ夕方に銃の訓練をしてるだとか。 もちろんぜんぶでたらめだ。寮にいるのはただの特待生たちで、銃声はおそらくクロトとが窓全開でシューティングゲ…

正攻法

  彼女は廊下で転びそうになったところをあの教師に助けられたらしい。その場面に居合わせなかったことは痛いが、幸いでもあった。 がどんな表情で彼を見上げたのか知りたくなかったから。「ムラクモ先生ってかっこいいよね」 どこか嬉しそうに…

やわらかい

  朝食の時間、といえるタイムリミットを超えてもクロトは降りてこなかった。とふたりで部屋に様子を見に行くと、なにやら小さく叫ぶ声がある。彼女は微かに眉を寄せるが。「え、え、どこか痛いのかな……」「食われる! 食われる!」「何やって…

アイリスアウト

  屋内に逃げ込む手段は封じられ、申し訳程度の庭に据えられた倉庫の影に身を隠した。息を整える間も、ドアの開閉する音が止まない。 こんなことになったすべての元凶が何だったかを思い出す暇もなく、唐突に足元に撃ち込まれる一撃をぎりぎりで…

地獄絵図

  久しぶりに聞いた通知音は、あまり機能していないメッセージグループへの着信だった。この寮の四人全員を巻き込むほどの用事が起きることは少ないからこそ、その用件がやけに気になる。面と向かって言えない相談だろうか。 デスクに置いていた…