「薄い」
テーブルの隅に寄せてあったスパイスの容器をつかんで、なんの味もしないスープにぶちまけた。向かいで同じ食事をしていたアリーシアの表情がにわかに引きつる。
「もう三回目だよ。辛くない?」
「まだ足りないくらいだ。ずっと前からどんどん味つけが薄くなってないか?」
ひと口確かめてみれば、やはり納得にはほど遠い。だが少し奥の席をながめてみると、中年のクルー数人はとくに不満もなさそうにスープを飲み干している。歳を食うと薄味が好みになるというのは正しいようだ。今は信じたくないことだが。
補給が絶たれている、なんてことはなく艦は順調に宇宙を進んでいる。いつ交戦状態になってもおかしくない状況で、日々の土台ともいえる食事がこのありさまでは気分も乗らないというもの。娯楽ではないが嫌うような行為でもない日課。
「深刻だぞ、これ。というよりただの白湯だろ」
「オルガ、かけすぎ」
またスパイスを振りかけた。透明な液体に、これもまた透明なオニオンスライスが浮かぶカップがみるみるうちに赤と黒のスパイスにふさがれていく。白いテーブルとのコントラストが、さらに深くなる。
「アリーシアがかけなさすぎなんだろうが。案外濃いめの方が食欲湧くかもしれねぇぞ」
さっきからスプーンを持つ手が止まっている彼女は青ざめてすらいた。多分、この場所で誰よりも幸せそうに食べる人間が。
「……喉が痛くなっちゃうよ」
「そのくらいがちょうどいいだろ」
ざらざら、ざらざらとスパイスは積もっていく。
ランダム単語ガチャ No.2954「調味料」