ハンバーグ

 

「そこいらの兵士と、僕」

 クロトはふたつを並べた。

「シアはどっちが強いと思う?」

 それはきっとMS戦も白兵戦もないのだろうとなんとなく予想がついて。

「クロト」
「そうだよなー。というかここで暇してる僕らこそ艦で一大戦力になってると思わない?」

 巻き込むな、とあからさまにオルガの眉間に皺が寄る。けれどクロトが言うことは本当だった。合同演習に参加していないから各隊との連携はゼロ、それなのに実際の成果は彼らのうちひとりだけでも小隊相当のものだという。機体と実戦に慣れていけばもっと伸びるのだとも。

 三人の中だけでもいいから連携してくれたらと頭を抱えている誰かがいることは――ここで発言したところで汲まれることはないので話題には出さないでおく。

「そのへんシアはどう考えてんの」

 ヘッドホンを外しながらシャニはぐいと伸びをした。その視線の先で、疲れた顔の整備兵が十人ほどぞろぞろ廊下を歩いていく。仕事がひと段落して街に出かけていくのかもしれない。暗くなるまで飲んだり、買い物をしたりと目的は様々だ。

 対して、ここで待機している三人に与えられる自由時間はもっと先で、そして短い。

「まずいちばんは、無事に帰ってきてくれたら。戦果より大切だよ」
「……そうかよ。いやそれは置いといてだ」

 どうやらわたしの返答は的外れだったらしい。すでに集中から外れていた端末は、ソファーから立ち上がったオルガの手でぱたりと閉じられてしまう。

「あっ保存したっけ……」
「それも置いとけ」

 どうか最新の内容でアップロードされていますように。

「とにかく、俺たちもっと高待遇でもいいんじゃねえか?」
「コータイグーって何」
「偉そーにできるってことでしょ。たくさん働かされる分くらいはさ」
「それは、そうだと思うな」

 表現はともかく。

 こうも連日艦内にいてはたとえ戦闘がなくても参ってしまうだろう。事実、クロトは昼寝を決め込もうとするもののなかなか寝つけないでいた。だから作業中のわたしや、それぞれのことに没頭するシャニとオルガに話しかけることしかできなくて。なにか、娯楽や癒しが増えたらという方針は大賛成だ。

「だよね! こう、この部屋にXbox入れるとかさ!」
「それクロトしか得しねーじゃん。俺はデカいスピーカーがほしい」
「甘いな、ボーナス出させたらどっちも手に入るだろ。で? アリーシアの取り分はどうすんだ」
「わたしもいいの?」
「ついでだついで。やっぱでかいケーキとかか?」
「ひとを食いしんぼみたいに!」

 にやつくオルガのいじわるにとっさに反論したところで戦況は一対三。

 とはいえ、そのでかいケーキを四等分するときが来たのならこんなレッテルなんて忘れてしまう気がした。彼ら三人とも甘いものが大好きだというイメージはなくて、逆に大嫌いなのかどうかもわたしは知らない。彼らから見たわたしも、きっと。

 一歩ここを離れたら、そんなことはたくさんあるはずだ。

「でも、みんなでおいしいもの食べるのはいいね。行きたいな」
「決まり! そのへんのやつ捕まえて訴えてくる、なんたって僕たち三闘神だもんね三闘神」
「なんだその二つ名はよ」

 足取り軽く待機室を出ていくクロトの後ろ姿が廊下に消えていき。

「……俺、なんかこの後の展開読めた気がする」

 ぽそりとつぶやいてシャニは仰向けに寝そべった。口に出さないまでも、オルガもそう考えているのだろう。ついでに、もうひとりここにいる。

 ***

 かくしてクロトは激怒しながら戻ってきた。

「馬鹿なこと言ってないでシミュレーションしてろ四狂人って叩き出された!」
「あ? 誰が狂人だぁ?」
「お前らといっしょの扱いかよ」
「あんなもんやり飽きたっつーの!」

 手近な椅子を蹴りつける音がけたたましい。これが宇宙だったらおおごとだ。

 ところで。

「四?」
「シア入れて四人だろ」
「そんなぁ」
「ここに平然と座ってる時点で相当だからなお前」
「あ、四といえばさ」

 ひとしきり暴れて落ち着いたらしいクロトの手からは、握りしめられてしわくちゃの紙片が出てきた。ぞろぞろと全員で取り囲んでみると、文字通り額を合わせた格好になる。

「なんだこのゴミ」
「嘘でしょ僕ゴミ押しつけられたの?」
「違うよ違うよ、割引券だってば」

 その上には、そこそこ手広く出店しているファミレスのグループのロゴが大きく躍っていた。

「これやるから全員で出かけてこいってさ」
「ファミレスって何」
「……おいしいご飯がたくさんあるお店だよ。ケーキもあったはず」

 チケットをくれたのが誰なのかなんとなく読めた、気がする。有事の連携は日頃のコミュニケーションから、ということなのかもしれない。

「おいしいって、これ?」

 クロトがチケットを裏返す。おすすめランチとして推されているこのメニューを、三人は気に入ってくれると思う。
 彼ら全員、つやつやに輝く焼き色に目を奪われていたから。

 

ランダム単語ガチャ No.402「ハンバーグ」