心臓

 

「いっつも腹空かせてるオッサンが店で飯食ってるやつ」

 そんなピンポイントすぎる特徴だけでも思い当たる作品が数個はあるから、あの国からライブラリに登録されているドラマは幅が広いと思う。クロトが暇に任せて見たのはそのなかのひとつ。

「でさ、なんか肉を串に刺してひたすら焼いてんだよね。なんで?」
「炭で直に焼けるからかな……?」
「あー、フライパンじゃなくて」

 ふいと横を向いたクロトの視線の先には、調理器具なんてひとつも見当たらないカウンターがある。お弁当のように規定の量が盛られたセットを、そこそこに並んだ職員が受け取っては適当な席についていく。

 陸の施設ならともかく、海や宇宙に出てしまえば食事は簡素になっていく。保存がきいて、一度に大量に仕入れられて、栄養バランスが保てていれば合格だ。味や食感つまりは満足感は二の次に。単なる補給の様相が強くなった食事を楽しむ者は少なく、たいていは食べ終わったらすぐに食堂を出ていく。残るのはわたしたちくらいのものだ。どこで待機していようが問題ないクロトと、艦のどこででも作業が進められるわたし。

 ふたりの間には、今まさになされているような取り留めもない会話ばかりが流れる。

「アリーシアは焼き鳥食べたことあるの? いいなー」
「お祭りで一回だけね」

 タレがかかって、きらきらしていて、ほんのり甘くておいしかった。話題に上げたということはクロトもそんなシーンを見たのかもしれない。わたしがそれを体験したことへの羨ましさのせいか、なにやらふてくされたように続ける。

「じゃあ心臓も?」

 ――ほとんど無意識に、隣に視線をやっていた。

 青い制服の下。

「うまそうだった。僕今日初めて知ったよ、心臓って焼けば食べられるんだね」

 とっくに飲み干していたドリンクのパックを取り上げて、軽々と握り潰すのはクロトの手。先ほどまではフォークを握って乾燥野菜と戦っていた。

「……あー、そういう……」

 名前は忘れたけど、なにかの動物の心臓が串焼きのネタになっていたはずだ。

「わたしは、ないよ。でも珍しいものでもなかった気がする……」
「ふーん。でも、そっか。殺されたんじゃなきゃ心臓も丸々残ってるか」

 今度はクロトがわたしのそこを見つめる番だった。

「アリーシア、その辺のやつにやられたりすんなよ」

 

ランダム単語ガチャ No.2608「心臓」