ここまでのあらすじ
雲雀恭弥「好きで横向き寝をしようと思ったことがない」
あらすじおわり
「違和感がある。あお向けに慣れてるからなのか」
「そんなときにはこの子!」
「君か。頼もしいね」
お褒めのことばとともにキョーヤはわたしからふわふわのクマを受け取ってくれた。大きな両手に包まれて、丸っこい体がいつもより小さく見える。
お昼寝前の午後三時、日なたの光でベッドは温かくなっていた。そこへ横になって、キョーヤはひとまずクマをお腹に乗せる。なんて寝心地のよさそうなところなんだろう。
「抱っこすると横寝でも気持ちいいよ」
「ふぅん。試してみようか」
両腕がクマを改めて抱きかかえて、ころりと寝返りを打つのを見てからカーテンをぴったり閉めた。さっそくうとうとし始める可愛い瞬きを見つめていると、わたしにも眠気が移ってくる。そんな中でも、ずっとながめていたいくらい好きなものがもうひとつあった。
今はシャツの袖に隠れている、しっかりとした腕。
そこへ収まっているぬいぐるみにほんの少しうらやましい気持ちになっていると、キョーヤはふっと視線をこちらへ向ける。
「みどりも寝るかい」
「わたしも、いい……?」
返事にちょっとだけすねた響きが混じってしまう。それを聞いて、小さく笑う声は続けてわたしを呼んでくれた。すぐそばに畳まれていた毛布を広げながら。
「おいで」
よくよく見ると、ベッドにはあらかじめ余白が空いていた。ちょうどわたしが入れるくらいにぴったりのスペースが嬉しくてすぐにそこへ横たわったところへふわりと毛布が降りてくる。もう少しだけ、とそれとなく体を近づけると、小さく笑う声がぽかぽかのベッドの上で柔らかく溶けて、心地よく響いた。
「キョーヤあったかいね。眠たい?」
「とてもね。君もそんな顔してる」
クマは毛布からちょこんと頭だけ覗かせている。なでてあげようとしたら、同じことをしようとしたキョーヤの手が上に重なった。そのわずかな重みが、微かに握り込む指の温かさがスイッチになったように、ふっと瞼は降りて。
***
「高さが足りない」
そんな声を聞いた気がする。
***
夢うつつの中で、クマを渡されたのは確かだった。だからキョーヤの両腕はがら空きに――とはならなかったみたい。
なぜならわたしがこの子の代わりになっていたから。
「うぅ……」
ことば、にもならないことばはこれで三度目だ。クマを抱きしめるわたしを抱きしめるキョーヤだなんてマトリョーシカが、嬉しいからこそにわかには受け入れられなくて。
誰の寝相のせいか毛布は脇でくしゃくしゃになっている。それでもちっとも寒くないのはお腹に回された手のひらと、背中に密着する胸のおかげかもしれない。
ふと目が覚めた瞬間の眠たさなんて飛んでいってしまった。それは、このクマちゃんみたいに後ろから抱っこされているどきどきのせい。
そして、いつの間にかめくれていたブラウスの裾のせい。
「……ふふ」
キョーヤの指先が、そこから入り込んでわたしのお腹にたどり着いている。わたしたちのどちらかが少しでも身動きするとくすぐられているみたいに感じるほど、なんだか感覚を拾いすぎてしまうところへ。本当なら思いきり笑ってしまいそうなのをこうして我慢しているのは、キョーヤを起こそうとがんばって振り向いたときに見つめたあの表情があったから。
「みどり」
浅い眠りの中で小さくわたしを呼ぶ、気持ちよさそうな寝顔の。
こんなこと、こんなに近くで目の当たりにしてしまったら何もできなくなる。それに、くっついていられて温かくて幸せだし――なんて理由もついてきたら結論は決まっていた。
キョーヤの安眠を死守!
というわけで、不規則にやってくるくすぐったさに耐える試練は必然的に始まって。笑い疲れの眠気はどんな感じだろう?
ランダム単語ガチャ No.705「ぬいぐるみ」
