※「ぬいぐるみ」のifルートです。
細かな記憶はないが、横寝に最適な環境を手に入れたのだと満足したことは確かだった。だがそれの成立に人柱を要したことはまったく記憶の外にある。
犠牲になったのがみどりだったことは、必然かつ最良の結果。
差し出されたはずのクマはいつしか彼女に抱きしめられていて、当のみどりは僕が抱きしめている。何やらもぞもぞと動いているようだったが、それもとうとう鳴りを潜め静かになった。
瞼を開いてみると肩がときおり震えている。ちょうど、笑いをこらえるように。寝苦しいわけではないらしいがそうなる理由もわからない。何が起きているのかとにかくそちらを覗き込もうと、わずかに身を乗り出したところで全てを把握した。
手のひらに熱。
「ん……」
かすかにこぼれる声が理解を補強する。
彼女を抱く手は、いつの間にかブラウスの下へ入り込んでいた。
「ひゃ」
薄い皮膚越しに、温もりを通り越した熱さがある。そろりと指先をすべらせるとまたしても吐息が跳ね。みどりにしてみればノーガードでくすぐられているようなものなのだろう――そう思い至ると、よからぬ考えが頭をもたげてくる。
腕の中で逃げられずにいるのを目の当たりにしてしまえば、決定的に。
ほんの少し筋肉の凹凸があるお腹から上へ。そうするとすぐに肋骨へと至った。はたから見たら腰を両手で鷲掴んでいるように見えるのか、などという問いは無意味だ。ここには僕と、哀れにも捕獲されたみどり、そしてその彼女に抱かれるクマしかいない。
「あ」
喉奥で抑えようとしてできなかった小さな悲鳴が上がるたびに、普段とは違う意味合いでぎゅっと抱きしめられる綿。もともと彼を手にしていたのは僕だった。
ベクトルが違うとはいえ両者とも抱き心地がいい。一度知ったら手放すことは惜しいと断言できる中毒性がある。その前提がありながら、今の僕はみどりに触れ続けることただ一点に溺れ始めていた。
か細くて、可愛い声。そのために。
彼女が嫌がって無理にでも起きたならこの執拗ないたずらはすぐにお開きになる。片脚を絡めて捕らえることをしなかった――したかったが諦めたのは、みどりが出ていけるように逃げ道を作ったから。
だが、そうはなっていない。今のところ。それはなぜか。
みどりは僕のためなら多少の無茶を我慢してしまうからじゃないか?
そんな仮説は検証するまでもなく結果が目の前にある。こちらのたぬき寝入りに気づいていない彼女が、ときおり体を震わせて笑い出すのを耐えている。
これは、よくないことだった。後で丁寧に言って聞かせる必要がある。たとえ僕が本当に寝ていようが、叩き起こす必要があるシチュエーションだって存在するのだから。
――といういかにも倫理側めいた正論は、にわかに崩れて説得力を失った。もし気づかれて怒られるとしても、今はみどりにいじわるをしたい欲望が勝っている。
「かわいい」
健気ながんばりに思わずこぼれたのはひとりごと。まさかと勘ぐられる前に、柔らかい体を抱きしめる両手をさらに上へ這わせていく。
ランダム単語ガチャ No.2070「仮説」
