この部屋に運び込むダンボール箱はこれで最後だった。一階からここまでを何往復したか数えるのも忘れてしまうくらい大変だったけど、ひと足先に着いていたキョーヤが振り向いたときには疲れなんてどこかに飛んでいってしまう。
「キョーヤ、これでおしまい。次に来るのは草壁先輩たちが体育館に持ってくって言ってた」
「ありがとう。助かったよ」
小さく微笑んで、片腕ずつ軽々抱えていた分厚いファイルをそばの机に置いて。
「みどり」
そうしてふと、窓を背にしたキョーヤは空いた両腕をわたしへ広げた。
「こっち」
それがいちばんの労いでごほうびだったから、急いで箱を壁際に安置する。それを追っていた目が不思議そうにぱちぱち瞬くのは気にもせずに、少し早足でキョーヤの腕の中に収まった。褒めてくれるのと、抱きしめてくれるのが嬉しくて。
ベストの胸に頬を押し当てると、いつも通りの落ち着いた心音が聞こえる。耳にしているだけでほのかな眠気を誘う音は今がおやつの時間だと思い出させた。今日のお茶とチョコはきっととてもおいしいはず。
「キョーヤもたくさんがんばったんだもん、休憩しなきゃ」
「……そうだね。ところで僕は」
広い背中に手を回すと、髪をなでる手が降りてくる。不意に途切れたことばを手繰って見上げた先では、キョーヤはやっぱり笑っていた。
ちょっとだけいじわるに。
「君の荷物を引き受けようと思ってたんだ」
――広げられた腕。大きな箱。彼の後ろには、きれいに積まれたダンボールの山々。わたしの背ではぎりぎりてっぺんに届かない高さの。
キョーヤのことばを裏づける数々の光景が瞼の裏を駆けめぐっていった。わたしはいつの間にか目を閉じて顔をうずめていて、そんなのは決まりきった理由のせい。
「恥ずかしいー!」
暖房のない部屋は、階段の昇り降りでくたくたの体をじんわり冷やしていく――なんてバランスのいい話はあっという間に崩れ去った。もちろん、自覚できるくらいわたしの体温が跳ね上がるという形で。
「そうみたいだね。熱くなってる」
「やだやだ測らないで」
「それなら、離れるかい」
言ってはいるものの、そんなことをちっとも考えていないしさせてくれないだろうことが口調だけでわかる。わたしの頬をつついてからかっていた指が背中をそっと包むと、もっと。
「うん。これがいちばんの労いで、ごほうびだ」
ランダム単語ガチャ No.9332「アルバート坊やの条件づけ実験」
