「かわさき」
「うん」
いくらか頁はめくられて。
「あまさき」
「尼崎」
次は遡って。
「……かやがさき」
「茅ヶ崎」
「うううんんん」
キョーヤは地理でも強い。わたしが知らない場所も知っているどころか行ったことまである。
「日本全国どこにでも行くんだね。なんで?」
「外から並盛を狙う輩もいる。その本拠地を潰しに行くんだ」
「えぇ……」
並盛にどんなお宝があるのかはともかくこの勢いだと全国制覇しかねない。文机に広げていた地図帳をわたしの鞄に戻す手は、次に自分のポケットから携帯電話を取り出した――と思いきや用が済んだのかすぐに片づける。それを見て思い出すのは電話越しのキョーヤの声。
「僕のいない間も、知らない人間について行ったりしないようにね」
たまの遠出の間、キョーヤは毎日電話をくれた。終わりにはひとこと言いつけるのを忘れず。小さい子じゃないんだからそんなことしないと言っても、変わらずに。
ざらざらとしたノイズの向こうでも、ほのかに微笑んでいるとわかる声で。
「今度キョーヤが行くときはわたしもついてく。だめ?」
「それはみどりがもう少し大人になってからだ」
「少しって、どのくらい?」
「知らない場所で迷子になっても泣かなくなったら」
「……キョーヤがいてくれたら泣かないもん」
堂々めぐり、鶏が先か卵か先か。そんな様相を呈してきた話は、わたしが折れることでいったんは幕を閉じることになる気がする。むくれてしまう頬を、長くてきれいな指がつついてからかっていくから。
「……かわいいから置いていくんだよ」
小さな笑みとともに座布団の上でふと崩される脚、それがなにを意味しているのか知っている。
「それに、みどりがおかえりを言ってくれるのが好きだ」
そうして広げられる腕の中はわたしだけのスペースだということも。
「……メールは、いいの?」
「後で返信する」
遠慮の必要はどこにもないとわかれば、今行く先はただひとつと決まっている。電話越しの声も好きだけど、やっぱりこっちのほうがずっといい。
ランダム単語ガチャ No.4355「通信教育」
