06

「……街が元通りになってる……」
「逆だよ。僕たちが帰ってきたんだ」

 学校の屋上で、すずめちゃんはフェンス越しにぐるりと三六〇度の景色を見渡した。破壊の跡も戦闘の影もない、少し前まではごく当たり前だった光景を目に焼きつけるように動かない。

 ここに欠けていた人間たちは続々と戻ってきているだろう。いったいあれから何日後の時点にたどり着いたのかはわからないが、そんな齟齬も些事と思えるほどの出来事だった。

「哲さんにただいまって言わなくちゃ!」

 こうしてすずめちゃんが振り返って笑うなら、よかったのではないか。山積した問題は解決すればいい。現に、この子に関わる情報についてどこを当たればいいのかはもう掴んでいるのだ。跳ねるような足音が僕から離れて応接室を目指すのがその証明だった。

「キョーヤ、早く行こうよー!」

 晴れた真昼の空気を胸に吸い込み、頷く。もうここは分岐点の真上だ。あの男が沈んだ絶望をなかったことにはできない。しかしこの目は未来が変わるのを見た。すずめちゃんのセーラーブレザーのポケットには形は変われどバニラが眠ったまま。

「助けてみせるよ」

 この子に追いすがる呪いなど断ち切ってしまえばいい。決意ではなく決定事項を唇の上で繰り返し、早く早くと急かすすずめちゃんの後を追った。

 小鳥のさえずりが青空に響き、光とともに降りてくる。
 
 ***
 
 山本武が沢田綱吉を殴り飛ばしている。

 あんなものではまだ手ぬるいとも言える。ここに揃った者全員の手で半殺しにされても文句は言えないことを彼は実行したのだから。

 たったふたり以外の誰にも真相を語らないままの決意はボンゴレの人間をどれほど苦しめたか、あの一撃が物語った。ある者は怒り、ある者は泣き――誰もが最後には喜び。そうして騒がしくなっていく森に背を向けて財団のアジトへ足を向けた。きっと草壁が待っているのだろう。

 僕の手に戻ってきたのは今までどおりの日々と、指輪だけだ。しかしこれで、再びあの子と向き合えるような気がした。すべてを取り返した今、やっとすずめちゃんを本当に送り出せる。白蘭を倒し、思惑を砕き、すずめちゃんが知っている並盛を取り戻した今なら。

 ――この先、君が隣にいなくても大丈夫と思えるようにはならない。それでもいい。受け入れていくだけだ。

 僕の心配ばかりしているだろうあの子に、そう伝えに行く。仕方ないと笑ってくれたらいい。けれど怒って泣いて許してくれないかもしれない。それでも、ことばが届かなくても、行かなくては。

 すずめちゃんが眠る場所へ巡らせていた思考は不意に、途切れた。

 ――聞こえたから。

「あぁ、ここにいたんだ」

 さく、と草を踏む軽い足音。語尾に音符でもつけているのかと思わせるほど明るい男の声。うつむいていた顔を上げ――息を呑んだ。