ブランケット

 

 一見、普通の女の子だ。しかしその頭へかぶせたブランケットでは、柔らかい髪と同じ色をした三角の耳がひょこりと立っているのはごまかせない。

「みどり」

 呼びかけると、みー、とも、ぴー、ともとれるいかにも子どものものとおぼしき返事がある。もちろん猫の。

 リングがどうだの匣がどうだのの実験に嬉々として参加するからこうなる。しょぼくれた顔はそのあたりのことも含んでのものだろう。さっきまでぶんぶんと不機嫌に振られていたしっぽは持ち主の心持ちを表して大人しい。

「これに懲りたら不必要に群れないことだね」
「みー……」
「明日になれば元に戻るそうだよ。今日はここにいて」
「にー」

 意思疎通に問題はないようだ。ちなみにそれぞれ「えぇ……」「はぁい」に対応する。

 座布団に収まる三角座りを囲むしっぽは長くて、ふくふくの毛に覆われて太くなっていた。ロールが不思議そうに鼻先を近づけるのに反応してか、ときおり先端がぱたぱたと跳ねる。

 意思を持っているかのような動きが気になって、指先で触れてみた。感触は確かに猫のもの。手のひらでそうっと握り込むとくたりと体を預けるのに似た脱力がある。見ればみどりはくすぐったそうに目を細めていた。先ほどのことなどきれいに忘れたのだと言われても納得できそうなほど、それは笑顔に近く。

 ――ひとつの仮説が頭をよぎる。

「……おいで」

 こちらから手を差し伸べてみれば、すぐに畳の目にそってやってくる動作には音がほとんどついてこなかった。猫さながらのしなやかな身のこなしとは裏腹に、表情は彼女そのもの。僕がこれからなにをするのか期待して、目を輝かせながら膝をついて。

「猫にしては警戒心が薄いね。どうしてかな」

 ブランケットをずり下げると、現れた耳はぺたりと寝ている。毛並みを整えるためになでると、ごろごろと喉が鳴った気がした。当の本人は自身のようすをまるで自覚する気配はなく。それどころかこちらの手のひらに頬ずりするように甘えてくっついてくる。それならと頬をなでてみると、ごきげんな鳴き声すら聞こえてきた。

 ふわふわしたものにくるまれて、ふわふわした表情をして。

「うん」

 仮説は正しかった。なにごとかと首を傾げるみどりを両腕に抱き取ると、よけいにそう思う。

「いつもとそう変わらないね」

 ――しばしの沈黙の後、抗議の鳴き声が数度飛んできた。けれどそれだって、喉をくすぐってやればたちまちとろけて腕の中で丸くなって。

「かわいい」

 恥ずかしがるうなり声は精いっぱいの建前なのだろう。真っ赤な頬は温かくて、触ると心地いい。これは眠りの前の体温によく似ている。

「かわいいから、うちの子になったらいいのに」

 うとうとしながら僕の胸にもたれかかるのを見ていると、心底そう感じる。

 

ランダム単語ガチャ No.4821「ブランケット」