SEED短編

やばい

  刑務所や病院の一部の部屋では、壁や床を柔らかい素材で覆っていると聞いたことがある。受刑者や患者が暴れて体を打ちつけ、けがをしないようにという対応だとか。それならいっそこの光景のように、拘束してしまったほうがましだと思うのは当事…

ないものねだり

  その日は町に出る気がなかったから砂浜を歩いていた。適当に時間をつぶして、帰投時間ぎりぎりまでこの手ぶらをごまかすつもりで。 波の音のほかには、ときおり甲高く鳴く海鳥の声だけがある。それらすべてを聞き流しつつ流木のそばに座り込ん…

頭からっぽ

  艦が海上へ出てはや数日。せっかく運び込んだ試験段階の支援兵器の評価は、予報の外からやってきた雨天や強風のために満足に進んでいなかった。そのせいでMAやMSとの連携の確認も同様に滞っているどころか問題点が増えていき。工数を増やし…

蜂蜜

  奪われたのは動きと呼吸だった。 いつの間にやら寝返りを打っていたのか、視界にはベッドの天板ではなく壁が広がっている。唯一自由な視線を下げ、体を縛りつけるようにお腹に巻きついているものを見下ろした。その正体にうっすら気づいている…

過去

  小さなころのある日、突然に死を理解した。きっかけはテレビ番組か、絵本か。そんな細かいことは忘れてしまったけど、母に泣きついたのは覚えている。「お母さん死んじゃやだ」 死なないわ、そう言って優しく頭をなでてくれる母の膝にいつまで…

救援

  三人が殴り合いの大ゲンカをしたなどという話も記録もない。そんなきっかけになるほどのかかわり合いすら少ないくらいだ。それなのに、この光景はどういうことなのだろう。 部屋の床に転がるふたり。 こんなことを目の当たりにして平静でいら…

ヘッドショット

  連合の、どこかの基地では研究が進んでいるらしい。薬物投与とカウンセリングとその他もろもろで痛覚をコントロールする技術だ。その処置を受けた後は、たとえばケガをすると体のどこかが痛いとはわかるが、それだけ。痛みの上限がとことん低く…

エンドロール

 「わたしの家は火葬だった。でも土葬のところもあるみたい……」 思い出しながらの発言はあいまいに揺らいだ。そうさせたオルガは頷きながらペーパーバックへ視線を戻す。いつも静かに本を読む彼がこちらへ声をかけるときは、だいたいその頁の上…

まだら

 奇妙な声。 幻聴だとわかっているのはいいことなのかどうか。 ことばの形を持っていない、輪郭のあいまいな響きは絶えず脳裏に直接叩きつけられていた。不快さとともに耐えられないほどの冷気が背筋を伝って全身へ広がっていく。 医務室のベッドに横たわ…

犠牲バント

 「じゃあ次、必殺技といえば?」 わたしの質問にしばしの間を置いてそれぞれの答えが部屋のあちこちから返ってくる。「……アバンストラッシュ」「超究武神覇斬でしょ」「波動砲しかないな」「オルガのは技じゃなくて武器だろ。判定」「うーんヤ…

四天王

 「悪の幹部っていいよな」 言い出したのはクロトだった。おのおの適当に暇を潰している(ひとり業務に追われている者もいる)なか振り向くと、彼はいつもとは異なる携帯ゲーム機を握りしめている。「新しい支給品か?」「いやの私物からパクった…