SEED短編

救援

  三人が殴り合いの大ゲンカをしたなどという話も記録もない。そんなきっかけになるほどのかかわり合いすら少ないくらいだ。それなのに、この光景はどういうことなのだろう。 部屋の床に転がるふたり。 こんなことを目の当たりにして平静でいら…

ヘッドショット

  連合の、どこかの基地では研究が進んでいるらしい。薬物投与とカウンセリングとその他もろもろで痛覚をコントロールする技術だ。その処置を受けた後は、たとえばケガをすると体のどこかが痛いとはわかるが、それだけ。痛みの上限がとことん低く…

エンドロール

 「わたしの家は火葬だった。でも土葬のところもあるみたい……」 思い出しながらの発言はあいまいに揺らいだ。そうさせたオルガは頷きながらペーパーバックへ視線を戻す。いつも静かに本を読む彼がこちらへ声をかけるときは、だいたいその頁の上…

まだら

 奇妙な声。 幻聴だとわかっているのはいいことなのかどうか。 ことばの形を持っていない、輪郭のあいまいな響きは絶えず脳裏に直接叩きつけられていた。不快さとともに耐えられないほどの冷気が背筋を伝って全身へ広がっていく。 医務室のベッドに横たわ…

犠牲バント

 「じゃあ次、必殺技といえば?」 わたしの質問にしばしの間を置いてそれぞれの答えが部屋のあちこちから返ってくる。「……アバンストラッシュ」「超究武神覇斬でしょ」「波動砲しかないな」「オルガのは技じゃなくて武器だろ。判定」「うーんヤ…

四天王

 「悪の幹部っていいよな」 言い出したのはクロトだった。おのおの適当に暇を潰している(ひとり業務に追われている者もいる)なか振り向くと、彼はいつもとは異なる携帯ゲーム機を握りしめている。「新しい支給品か?」「いやの私物からパクった…

ホウセンカ

  外の騒がしさは夕闇が深まるにつれてますます大きくなっていった。それに比例するように灯っていたライトの眩しさが映えていく。甲板から眺めていると、客は現地住民だけでなくこの艦からの者も混じっているようだった。彼らは私服にそぐわない…

先制攻撃

 前々回のくすぐり。 前回の猫だまし。 そして今回、ペンライトでの目くらまし。 目の前にはナイフがある。 その向こうには喜びを隠しきれない唇が。「レギュレーション違反でしょ!」「実戦にレギュレーションも何もないだろ!」 続く正論がとどめにな…

隔絶

 薄い肩を引き寄せてすぐさまドアをロックした。未だ状況の全てを把握できていない色をしている目が、冷たく仕切られたこちら側で瞬く。「お前が悪いんだよ」 もっと、もっと他に伝えたいことがたくさんある。それなのに出てくるのは責めることばだけだ。こ…

トラウマ

 同じ訓練を受けていた若い男がいた。そいつは五度目の投薬の後に血を吐いて死んだ。それを仕方なく監督官のところに運んだ。部屋に戻ると手の甲に血が飛んでいた。 そんな、三十秒にも満たない話。はベッドの上で黙って聞いていた。無表情の下には微かな同…

痛み

 度々見る光景、それも窓の向こう。夢ではないと確信できたのはつい先日のことだった。 薬の効力が切れ、部屋への通信は切られ、神経系が焼き切れ――これは錯覚だが。掠れる視界と薄れる意識の中で、聞こえるはずのない涙声。 経過観察する者しかいない窓…