SEED短編

ホットコーヒー

  人を、看取ったことがあるという。今となっては幸福なことだろうに、それを話すのはぽつぽつと力なく。「一度血圧が下がり始めたらだめなんだって。指先からどんどん冷たくなって……わたしが握ってたらそのときだけは温かくなったけど」 の両…

有刺鉄線

  蝉の抜け殻がひとつ、むき出しの地面の色に溶け込むようにぽつりと落ちていた。正確には、ただの枯れ葉色をしたかたまりを見つけただけ。それが生き物が残していくものだと知ったのは少し後だ。 今思えばあれは、硬そうな爪と虚ろな目。触れて…

おぼえがき

  が持ち込んだ私物の中には卓上カレンダーがあった。観光地の写真が印刷された色鮮やかな――だが古めかしさも感じる代物。実物を見るのはこれが初めてだ。「予定なんて端末にまとめてなかったっけ?」「そうだけど、せっかく当たったから」 く…

調味料

 「薄い」 テーブルの隅に寄せてあったスパイスの容器をつかんで、なんの味もしないスープにぶちまけた。向かいで同じ食事をしていたの表情がにわかに引きつる。「もう三回目だよ。辛くない?」「まだ足りないくらいだ。ずっと前からどんどん味つ…

ハンバーグ

 「そこいらの兵士と、僕」 クロトはふたつを並べた。「はどっちが強いと思う?」 それはきっとMS戦も白兵戦もないのだろうとなんとなく予想がついて。「クロト」「そうだよなー。というかここで暇してる僕らこそ艦で一大戦力になってると思わ…

悪あがき

 「長い話、嫌いなんだよ」それは十頁ほどの物語にも当てはまる。以前オルガの持ちものから適当に気まぐれに取り出したペーパーバックを、数分とたたずに放り出していたから(もちろん怒られていた)。「文字を読むの、苦手?」「というか、それも…

心臓

 「いっつも腹空かせてるオッサンが店で飯食ってるやつ」 そんなピンポイントすぎる特徴だけでも思い当たる作品が数個はあるから、あの国からライブラリに登録されているドラマは幅が広いと思う。クロトが暇に任せて見たのはそのなかのひとつ。「…

  そこらじゅうで騒がしく働く人間たちの中に、若い顔が混じり始めたのは艦が海上演習から戻ってからだった。新しい軍服に身を包む彼らは、真剣な顔で機体や機器について説明を受けている。 その、説明する側のひとりには見覚えがあった。この通…