呪術短編

若葉マーク

「高速教習だとかっこいい車に乗せてもらえるんだよ。楽しみだったけど、怖いなって気持ちの方が大きかったかも」 分厚いとは言えない教本だけれど、めくるだけでめまいがしてくる。表示標識義務救護……とにかく覚えることが多い。世の中を走る車はこんなこ…

腑に落ちる

※モブ視点 まだ正式な編入ではなく、特別な措置だという。彼は他の生徒と同じように授業を受けながらも、保護観察と称しその生活は常に監視の目に晒されていた。 煩わしくないのか、ルームミラー越しにそう問えば「それだけのことをした」とだけ返ってくる…

爆弾低気圧

 目の前の光景が夢か幻ならどんなによかったか。 家入先生が歩み寄る方には、確かにひとりうつ伏せて倒れている。毛足の長いラグに埋もれるようにして、音もなく。「……さん」 脚が竦んで動けなかった。 これは何かの間違いだと、拒絶することしか、今は…

神がかり

 あらすじ はご都合術式の餌食になりました あらすじ終わり *** その上密室に閉じ込められたのだから笑えない。何とか外部との通信はできたから、ここを耐えたら誰かが助けに来てくれる。 その点での不安は全くない。 その点では。「楽しくなってき…

ひつじ

 スリッパから覗くパステルカラーを上へたどっていくと、丸い瞳に丸い鼻の動物のイラストがある。ふくふくと柔らかそうな曲線の模様は、羊の手と綿毛だろうか。さんの足首を彩る可愛らしいルームソックスから目を離せずにいたのを、少し経ってから気づかれて…

 花壇の端に陣取る野良猫が見つめるのは、商店街を通りがかった僕たちを透かしたさらに向こう側。大きな毛玉を認め微笑んで近寄って行ったさんをちらと眺め、しかしまた視線を戻してしまう。「可愛いでしゅねー、ひとりなの? おいでおいで」 うーん可愛い…

サンクチュアリ

 窓辺に置いた小さな鉢植えは両手で持ってもずしりとした重みを感じる。真ん中に咲いている一輪のパンジーは目の覚めるような黄色を朝日に輝かせていた。「うん。綺麗だね」 頭に被せたタオルのように澱月が僕の上にふわふわと降りてくる。手が塞がれる僕の…

存在

フィクションのように、両脇を大柄な男性たちに固められることはなかった。逆に、未熟な未成年扱いやそれに基づく懇切丁寧な説得もなかった。ただ悠仁くんと、彼といっしょにいた大人のふたりに知らないところへ連れられて、よくわからない単語の入り混じった…

闇の中

 ついさっき寒気を訴えたはずの目は今やとろりと眠気に飲み込まれ始めていた。その場に座り込もうとするのを支えると、ブラウス越しにも体温が低いのがわかる。 クローゼットの、そう脈絡のないことばを最後に長いまつ毛は伏せられがちに、とうとうことばは…

ゴルディアスの結び目

  明かりの落とされた部屋に訪う足音がある。軽く小さく、遠慮がちないつもの調子にほっとするのと同じくして、ゆったりとしたリズムでノックを四回。いつからともなく決められたさんの合図だった。 蝶番の軋みすらわずらわしいのは早く声を聞きたいからな…

開拓レビュータイム

  あらすじ 順平とはとくにアクション映画ファンではなかったけど話題作を観てみました あらすじ終わり「……いいね……」「たまには好みを外れることも大切だね……」「さんおすすめのイコライザー、好きだな」「だよね! ロバートがアリーナに優しく語…

ジェントルマン

「さん」 順平くんはわたしをこう呼んでくれる。「寒くない? ブランケットここにあるからね」 そして、こう。「敬語とタメ語がちぐはぐ?」 気づかなかったとばかり目を瞬かせる。カーテンを閉め切ったこの部屋で、瞳に映る光はテレビの明るさだけ。ふた…