ひつじ

 スリッパから覗くパステルカラーを上へたどっていくと、丸い瞳に丸い鼻の動物のイラストがある。ふくふくと柔らかそうな曲線の模様は、羊の手と綿毛だろうか。藍さんの足首を彩る可愛らしいルームソックスから目を離せずにいたのを、少し経ってから気づかれて。

「あんまり寒かったから買っちゃったんだー」
「すごく似合ってるよ。可愛い」
「ありがと」

 にこにこと笑う藍さんの部屋には、カーテン、ぬいぐるみ、マグカップ……このひとにぴったり似合うものがたくさんある。自室のインテリアにこだわったことはないけれど、こうして好きなものを並べるのはとても楽しそうだと思う。

 ――真っ先に藍さんゆかりの品を置きたくなるのは秘密の話。

「そうだ、順平くんも使ってみる?」

 このひとは僕の顔から何か読み取る力でもあるのだろうか。飛び出そうになる心臓を間一髪飲み込む。

「な、何を?」
「この羊くん。あとふたつあるの、つま先が水色のやつとオレンジのやつ」
「いいの!?」
「うん。……ほんとはね、順平くんとお揃いになりたくて三つ選んだんだよ。だからプレゼント」

 みんなにはないしょだからね、と唇に人差し指を当てる可愛い笑み。それだけで一気に体中が温かくなる。

「ありがとう藍さん……!」

 どんなアイテムよりもこの柔らかさが寒さに効く、そんな確信とともに頷いた。

「水色がいいな。そういえば、こういうのを使うのすごく久しぶりだよ」
「そうなの? じゃあ、ずっと小さい頃だ?」
「そうだね。確か……あ、クマの耳がついたニット帽とか被ってた気がする」
「絶対可愛い今度写真見せて!」
「だめだよ、恥ずかしいから!」
「えーっ」

 苦情を申されてもだめなものはだめ。それに比べて、今ここで羊くんのきょうだいを身に着けるのは照れよりも喜びの方が遥かに大きかった。何かの拍子に視線を落とすたび、もこもこの笑顔と目が合う。それはつまり、藍さんといた今日この場所の温かさすら鮮明に思い出せるということだから。