あらすじ
藍はご都合術式の餌食になりました
あらすじ終わり
***
その上密室に閉じ込められたのだから笑えない。何とか外部との通信はできたから、ここを耐えたら誰かが助けに来てくれる。
その点での不安は全くない。
その点では。
「楽しくなってきちゃった」
今は、泣き顔で楽天的なことを述べる藍さんが全てだった。体育倉庫に逃げ込むはめになる数分前を思い出す。
あんたなんて大嫌い、いっしょに練習だなんて吐き気がする――任務先のこの中学校はいやに殺伐としていた。グラウンド隅のクラブハウスは掴み合いと罵り合いの修羅場と化して。妙なのは、喧嘩を吹っかけた側の生徒が呆然と取り繕おうとして火に油を注いでいたこと。
校区中で、こうした騒ぎが相次いでいるのだという。
「こういうの小説で読んだことあるよ……」
運の悪いことに近所にいた藍さんが、合流するなり惨状に真っ青になりながらひとつの仮説をもたらしてくれた。
「言いたいことと口から出ることがあべこべになるの。そういう催眠術で」
その直後にふざけたひょっとこ顔の呪霊が飛び出して藍さんの後ろ頭をとんとつつき――そして今に至る。
「本当にごめん。守りきれなくて……」
何とかあれは祓えたものの、被害は深刻だ。最後のあがきに巻き込まれここにふたりきりで閉じ込められたのは、ささいなことだった。
「順平くんのせいだよ、本当に痛かった……」
藍さんの声で、笑顔でなじられるのは辛い。とても辛い。あの仮説がなければ絶望のあまり気絶していたかもしれない。
「もうわたし喋り続けてた方がいいよね。順平くんのこと褒め倒しそうだから」
「……ううん……僕は全然平気……」
一拍挟まないとその真意を変換できない。藍さんは僕に酷いことなんて言わないという大前提があればこそできることだった。
「とにかく猛省して。それからさっさと働いてよね順平くんひとりで」
ものすごく罵倒された。優しい笑顔でことばにして、すぐ口元を押さえるのが可愛い。場違いな感想だけど。
対して僕は何故だか胸が高鳴った。
「はい喜んで……!」
ものすごく怪訝な顔をされた。
これはまずい。助けを待つより先に脱出しなければ僕が新しい扉を開いてしまいそうだった。
一方、血迷った僕を目の前にした藍さんは一気に涙目になって。
「こんなの全然怖くないよ、順平くんとずっとここにいたい」
――ここまで神がかったことばの綾があるだろうか。
「……藍さん泣かないで! すぐ出してあげるから!」
どうにかこうにか真逆の気持ちを叫んで、ひしゃげてびくともしない出入口の前へ立った。澱月頼むからこの複雑な本心なんて気にせず従ってくれと祈りながら……一瞬その通りにしてしまいたいと揺らいでしまった自分を責めながら。
ランダム単語ガチャ No.4081「神がかり」
