幻水

短編

名前変換

 

▼夢主について(必読ではありません)

ハルモニアから同盟への留学生。レイピアの使い手で風の紋章の名手。デュナン統一戦争で帰るに帰れなくなりました。

 

  • ほろ酔い

      か、そう呼ばれた第一声で異変を察する。普段揺るぎなく根を張る大樹が、今は風にあおられる若木のよう。そんなふわふわとした話し方をするマイクロトフは初めて見た。振る手も表情も酒場のざわめきにかき消されそうだ。「なにごと……?」「飛…

  • 改革

    「ざーんねーん! はエンブレム装備できまーん!」 彼女が驚愕しがっくりと落ち込んで自室に帰ってしまった理由はあのことばだったらしい。発端となったチャコはシドに引っ張られていったがどこへ行ったのか。カミュ―は「詮索しない方がいいこともある」と…

  • 追い風の情熱

     こんなに長くグリンヒルを離れたのは久しぶりということ、あんなにも心が躍ったのは初めてということ、だからこそ最高のプレゼントを作ろうとしていること。 窯の前で焼き上がりを待ちながら、ニナはたくさんのことを教えてくれた。エプロンを外すのも後回…

  • ワンマンショー

    手を引き寄せられ、それがいつもの親切ではないとわかっている分硬直してしまうのも早かった。そこからは鮮やかな背負い投げ。もちろん投げられたのはわたし。手のひらが畳を打って微かに痺れるのは想定内だった。むしろ、一ヶ月前は防御も何もない体たらくだ…

  • 安心感

    一時的なものと診断されたとはいえ、視力を完全に潰されるのはどんな感覚なのだろう。治るとわかっていても味わいたくはない症状だ。ガンナーが一瞬でも盲目の時間を持つなど冗談ではない。ホウアンの言いつけどおりは自室で大人しくしていた。入口ですれ違っ…

  • くだらない

    平地に布陣した同盟軍。そのすぐ西にある森に潜むと仮定した伏兵を一網打尽にするにはどうすればいいか。彼らは騎馬隊、数は不明。「紋章で眠らせます。例え大多数に効果が及ばなくても統制は乱れるはず。捕えてこちらに加えてしまえば」「そうだな。しかし時…

  • 白紙のページ

    クリスタルバレーに来る学生はいても、離れる学生はあまりにも少ない。そうする利点が限りなくゼロに近いとされているからだ。その点を指摘されたことは一度や二度ではなかったらしく、はとくに戸惑った風でもなく答えてくれた。蔵書を扱う手つきも探す段取り…

  • ポニーテール

     青騎士団主催の合同訓練当日に寝坊した、理由はそれだけだった。慌ただしく着替えその他諸々の身支度を整え、髪型を決めるのも煩わしく自室を飛び出したところで彼と出くわす。「あぁ、起きていたのか。迎えに来たぞ」「ありがとうー……ごめんなさい、手間…

  • アドバイス

    城の農場を狙う鷹が現れた。それをクライブたちが退治した。ふたつは立て続けに囁かれた噂話。ちなみにわたしはタキさんから聞いた。「あの子はとても面倒見がいいのね。フェザーくんと手分けをしていたそうよ」タキさんにかかればクライブだって孫同然なのが…

  • 女の子

    困り顔の青騎士たちに酒場の片隅へ案内されたわけがようやくわかった。見回りから戻ってずいぶん経つこんな時間に着替えもしないでぽつりとひとりでグラスを傾けている。らしくない背中を見てしまえば放っておけるはずもなく。「オウラン殿に釘を刺された」「…

  • いじわる

     朝、鍛錬相手を投げ飛ばした。 昼、嬉しそうに肉野菜炒めの大皿を受け取った。 夜、城内で迷う子どもを抱き上げた。 その全てを目にしたわたしにはとてつもない憧れの的だった。「俺の手が?」「あなたの手が」 不思議そうに結んて開いてを繰り返される…

  • 若者

    殴り飛ばされたのはわたしではなく迫っていた兵士の方だった。そのままあと数人を同じように蹴散らした将らしき男は、奥で我関せずを決め込んでいた小隊長の胸倉をつかみ。「無抵抗の市民を捕らえろと誰が命じた? 最優先は市長代行の捜索だと通達が出たはず…