朝、鍛錬相手を投げ飛ばした。
昼、嬉しそうに肉野菜炒めの大皿を受け取った。
夜、城内で迷う子どもを抱き上げた。
その全てを目にしたわたしにはとてつもない憧れの的だった。
「俺の手が?」
「あなたの手が」
不思議そうに結んて開いてを繰り返されると関節が動くのがよく見える。個室のテーブルで向かい合うこの距離ならなおのこと。マイクロトフの手は大きくて、握られたフォークがことさら小さく感じた。
メープルシロップをかけたばかりのパンケーキを持っていく。それだけで、長い指が繊細にフォークの柄を伝った。厚みのある甲が筋肉を複雑に収縮させ、力の入り具合が手に取るようにわかる。
「あまり見ないでくれ、カミューにも食欲旺盛だとからかわれるんだ」
「だって本当に好きなんだもの。どうしてこんなに好きなんだろう」
「……手ではなくて俺に向けて言うべきだと思うぞ」
しかめっ面で自分の部位に嫉妬するのが可愛らしくて、ごめんと返すのすら笑い混じりになってしまう。そしてその間ですら完全に目を離すことはできなかった。
骨の具合のよくわかる、綺麗な手。
「触りたい」
「何」
「ね、手をつながせて」
「……食事は終わった、が」
戸惑って角張ることばはがたがたと音を歪ませた。気まずそうにそらされる目線は右へ右へと泳ぎはしたものの行き止まりにぶち当たって結局わたしの上に帰ってくる。
「だめ? それとも、嫌?」
「どちらも違う」
言い切るのはいつも通りはきはきと心地よい声。それと反比例してまつ毛は落ちる雨粒のように柔らかく伏せられてしまって。
「……君の手は小さくて滑らかだ。触れていると離したくなくなる」
――そんなことを、大好きな声で言われたら余計に触れてほしくなる。思わず伸ばしてしまう指を見つめるのは困り果てた目。
「君は存外と意地の悪いことをする」
わざと煽るような女の子をマイクロトフは嫌うだろうか。きっとそんなことはない。
現に、わたしの指はあっさりとあの手に捕まったのだから。
「いいとも、返事は最初から決まっていた。……好きに、触れてくれ」
「あなたもね」
悔しそうにわたしを見下ろす意味が、とても鮮明に読み取れる。マイクロトフはわたしのためにたくさんのことを自制しているから。
「……リシュ。二言はないのだろう」
ため息とともに告げられる確認。そのあまりの熱さに息を呑むと同時に、そうっと握りしめられた。
散々挑発した報いは、何だろう。
ランダム単語ガチャ No.232「いじわる」
