一時的なものと診断されたとはいえ、視力を完全に潰されるのはどんな感覚なのだろう。治るとわかっていても味わいたくはない症状だ。ガンナーが一瞬でも盲目の時間を持つなど冗談ではない。
ホウアンの言いつけどおりリシュは自室で大人しくしていた。入口ですれ違ったトウタが言うにはまだ時間はかかるとのこと。ベッドにうつ伏せて顔も上げようとしないのを見れば頷かざるを得なかった。
「トウタくんいきなりハスキーボイスになったね……」
「……今日は大目に見る」
「怒らないでよ」
「怒ってなどいない」
抱きしめる枕にくぐもった声がようやく聞き取れる距離へ椅子を寄せる。減らず口も力なく、ぐったりとした体は呼吸すらためらいがちに弱々しい。
「痛むのか」
「痛くないよ。でも体が変な感じ、風邪引いたときみたい」
目くらましの光から逃げられず、草原の真ん中でリシュは気を失ったという。その場にいたのが自分だったとしても結果は変わらなかっただろう。役割の上では彼女はこちらをかばう側だ。それが歯がゆい。
「クライブ、どこ?」
シーツの上を白い右手がさまよう。今回は大きな怪我がないのが不幸中の幸いだった。手袋を外した柔らかなそれを握ると、ふっと微かな吐息がこぼれる。
「いた」
「いる」
「うん」
端的なやり取り。おかしそうに笑うのを聞くのには慣れている。それなのに今は求めてやまなかったもののように感じた。――思えば、知らせを受けてここに来るまでずいぶんと急いだ気がする。恐れにも似た焦燥に急かされるままに任せたのはなぜだったのか、その答えはすでに手にしていた。
「クライブの手、わたし好きだよ。温かくて大きくてほっとする」
「……気の済むまでそうしていろ」
だからこちらを向いてくれ、とは言えずに飲み込む。
一歩間違えばこのささやかな繋がりすら永遠に失っていた。ここにいる者たちは皆、自らを危険に晒して戦争に身を投じている。そして終わりが突然訪れるのは戦場とは限らない。
今リシュの視線をまともに見てしまえば思い知らされてしまう。失うことを何よりも恐れていることを。
「死ぬなよ」
「死なないよ。クライブの目の前ではとくに」
この場でいちばん労られるべき者に励まされている。これ以上ここにいては冷徹な追跡者の人格が溶けてなくなると予感し、それでも離れることなどできなかった。
武器を取るには小さすぎる手を解くことなど。
ランダム単語ガチャ No.469「安心感」
