手を引き寄せられ、それがいつもの親切ではないとわかっている分硬直してしまうのも早かった。そこからは鮮やかな背負い投げ。もちろん投げられたのはわたし。手のひらが畳を打って微かに痺れるのは想定内だった。むしろ、一ヶ月前は防御も何もない体たらくだったのが少しはマシになった気分。
「しっかり受け身がとれましたね。しかし、その前に脱出を試みるのも大切ですよ」
「ありがとうございました」
その場で正座して一例すると、カミューも膝をついて同じように返してくれた。同時に、ここまで痛いほどの沈黙で見守ってくれた騎士団や住民の女性たちが、やっと息をつくのがよく聞こえる。
「さすがカミュー様……道着でもかっこいいわよね……」
「リシュ様も一段とお強くなられて素敵だわ」
「団長! お疲れさまです!」
「僕この前リシュさんに握手してもらったんだ……」
「うんうん、ふたりとも凛々しくて見入っちゃうよね」
「リオウ殿は決裁に戻ってください!」
今この軍の総大将が引きずられていくのが見えた気がする。リドリー将軍ここまで探しに来たのね……ぼんやり考えていると、カミューにぽんぽんと肩を叩かれた。
「リシュ、疲れましたか。そろそろ休みましょう」
「うん、食堂行こう! 今日は姐さんがお昼ごはん作ってくれるって」
「ロウエン殿の料理は初めてごちそうになりますね……さぁ、どうぞ」
赤騎士の装束ではなくても、カミューがエスコートしてくれるなら真っ白な道着も王子様を連想させる優雅な衣装に早変わりする。その証拠に、老若男女の歓声が止まないのだから。
でも、そのイメージがほんの少し現実とズレていることにはさすがに気づいていて。
「ね、どうしてみんなの前だと違うの?」
武道場を出るタイミングで小声で聞いてみる。
「その方が私に都合がいいからね」
こんな風に、本来カミューはわたしには少し砕けた接し方をしてくれるはずなのに。マイクロトフ以外の誰かがいる場では、いかにもな騎士ムーブを頑なに崩そうとしない。にこやかな――というより対外的で綺麗な笑顔は、限られた相手の前ではほっとする温かな微笑みになる。
「都合って?」
「君自身はあまりピンとこないだろうけど、魔法兵団のリシュは有名だよ。一説では、強くて優しくて可愛らしくて、だそうだ……どこでとは言わないが、男性たちが噂しているのを聞いたよ」
後半は、少し不満そうに。わたしがそれを不思議がっている間に、カミューはさっさと上を脱いでしまった。真っ黒なインナーが嘘のように映えるのは、さっきまでの白と真逆だからかもしれない。
「そんなリシュ殿の隣に半端な男がいたら希望を持たせてしまうだろう? だから皆の前では、騎士団長の私としてリシュに接するんだ」
――さっきの稽古、カミューにとっては全く別の意味合いがあったのかもしれない。息ひとつ乱さない余裕の裏で糸が引かれているのが見えた気がして目をこするのを止めたのは、いつも通りの優しいカミューの手……のはず。
ランダム単語ガチャ No.1987「ワンマンショー」
