マナケミア

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<短編>

ロクシス

  • 足音

    授業のあと、売店へ寄ったせいで遅れた。少々急ぎ足になってアトリエの扉を目指していると、目の前のそれがぱたんと開かれる。まるで私が来るのを待っていたかのようだ。「おかえりなさいっ」ひょいと顔を出したがそう言って微笑む。彼女の背後からは、夕方の…

  • 流星群

    君は可愛いな、と。「……」気づいたときには遅かった。***真夜中、寮を抜け出して校舎の屋上に行こうと言い出したのはの方だった。「今日は流れ星が落ちる日なんですよ」そうやって、星空もかくやのきらきらとした目を向けられては、反対も制止もできなか…

  • 水面に映る

    資料館に歩いていくを見た、とクラスメイトに聞いたときから察しはついていた。彼女がひとりでそこに行くのは、九割が勉強のため、残りは――誰にも見られない場所へ逃げ込むためだ。***モンスターが出る領域の、比較的浅いところには座り込んでいた。見上…

  • 寄越せ

    「はどこだ!」「今日こそは白状させてやる」「逃げられると思うな」以上、全てロクシスの言である。先程まで大人しく机について、黙々と調合を進めていた――と思いきや突如立ち上がりアトリエを出ていった彼の。(ほとんど)蹴り破っていた扉の先、通りがか…

  • お姫さまになりたい

    夕方のこの時間、早く帰らないとモンスターが怖いな。歩き疲れて、ついでに戦い疲れた頭でぼうっと考えていると、背後で休んでいたふたりの声が不意に鮮明に届いた。「ムチャするからそういうことになるんだっての」「ごめんってば」「へーへー」なんてやりと…

  • 「ウィッチ系の討伐」だと、確か彼らは言っていた。それがなぜ、は噛み痕をつけられて帰ってきているのか。これは人間の歯型だろうどう見ても。そのは、「痛痒いです」とわかりそうでわからないことを零しながら私の手当を受けている。彼女がアトリエのソファ…

  • 待ち人

    「これ提出し終わったら、すぐに行きますね」先ほどのの笑顔が瞼の裏に浮かぶ。アトリエには私しかいない。他は全員採取やら武器開発やらで出払っている。強制連行のリスクも爆発事故のリスクもないのがこんなにも快適で、静かなことだとは知らなかった。ひと…

ヴェイン

  • radio(not)kiss

     「こう、発電エレキテルと真空雷管を組み合わせてです」「うんうん」「こう……録音機的なアイテムが作れないかなって……」「うーん……?」 空気の振動が必要な音の道具に「真空」を持ち込んでいいのかどうか悩むところ。の構想はさっきから行ったり来た…

  • 誰にも知られたくない

    座り込んだの全身がわかりやすく強張る。それはそうだろう。ここが空きのアトリエで、今は生徒がはけた夕方で、教師陣の見回りはずっと後というタイミング――つまり、誰も来るはずがない場所。そんなところで男子生徒に捕まっている、などという状況では。「…

  • どちらにせよ一生の恥

    のお気に入り防具は巫女装束。「かっこいいです!」「素敵!」「可愛い!」と、エーテル効果の実験と称しては毎回自分の防具を巫女にする。僕たちとしては何の問題もなかった。の腕に狂いはなくて、新しい素材を使うたびに新しい効果を見つけられるのは本当に…

  • 沈黙は幸になるか

    「君が好きだ! 付き合ってくれ!」は鳩が豆鉄砲……を体現したかのような表情のまま硬直する。もちろん、僕が大声であんなことを叫べるはずがない。を校舎の倉庫前に呼び出した同級生の男子生徒だ。少し日が傾いたオレンジ色の空の下でも、頬が赤くなってる…

lakeside→dramatic escape!<ロクシス><長編:完結>

  • 01

    「問題だ。そこの蛇口からいくらでも採取できる素材は?」「ヘーベル湖の……」 会話が途切れる上に間違っている。こんなことが始まったのはちょうど一週間前からだ。あのイゾルデ先生が授業中に怪訝な顔を隠せなくなるほどにはうわの空の状態が続いていた。…

  • 02

     鋭いスパイクの応酬の間に甘いトスや辛うじて機能するボレーが挟まり。後はグンナル先輩とニケによる頂上決戦の様相を呈してきたバレー対決は観客数名の歓声でそこそこの盛り上がりを見せている。プレーから外れた私とは湖のほとりで足だけを水に浸けながら…

  • 03

     瞼を掠めていったのが雨粒だと気づくのにはいくらか時間を要した。その頃には目の前で展開していた対決はすでにお開きとなり、各々適当に固まって花を眺めたり木に登って景色を楽しんでいたが――その全員が一斉に顔を上げた。 輝く日の光を遮る、厚い雲。…

  • 04

     自室にこもることには読書のおかげで慣れていた。とはいえこの状況では読書どころではない。額に手をやると確実に熱を持っていて、頭の芯が溶け出しているかのように思考が鮮明さを失っている。 昨日の帰り道に五回ほど心配されたことが的中した。今朝のメ…

  • 05

    「これが飲みもので、こっちが果物。ロクシスご飯は食べられるんだよね? 少しでもお腹に入れないとね」一見、ではもちろんなく正真正銘の良心がここまで胃に突き刺さることはあるのだろうか。机に次々と差し入れを並べていく見回り担当の名前はヴェインとい…

  • 06

    朝いちばん。教室またはアトリエで彼女を捕まえるのにうってつけのはずのあの時間、どこで何を聞いても帰ってくる答えは同じだった。「さっき窓から出て行った」おかしい。はそこまでアグレッシブな女子ではない。あのアトリエを基準にするならば、だが。彼ら…