君は可愛いな、と。
「……」
気づいたときには遅かった。
***
真夜中、寮を抜け出して校舎の屋上に行こうと言い出したのはノルンの方だった。
「今日は流れ星が落ちる日なんですよ」
そうやって、星空もかくやのきらきらとした目を向けられては、反対も制止もできなかった。品行方正な優等生(だったはず)のノルンからのそんな申し出に、現実感がわかなかったこともあるかもしれないが。
「自室から見れば済むだろう」
などという話ではないことくらいわかっている。ノルンが誘ってくれたのだから、ここは自惚れるのが正解なのだ。
「いっしょに星を見たい」と言われているのだと。
***
「ロクシス」
呆然と、ノルンの唇から私の名前だけがこぼれおちる。目を丸くして、少しだけ見開いて。
「君は可愛いな」……幻聴でもなんでもない、私が口を滑らせて本心をそのまま音にしただけのことだ。
「……ノルン、これは……」
取り繕うことは、考えはしたが実行しない。せっかく屋上にふたりきりなのだから、今なら周りの誰も気にせず言えるだろう。
「……君が、本当に嬉しそうに星を見上げていたから」
「え……」
「そう思った。それだけだ」
ノルンの表情が変わる前に目をそらし、再び星空を眺める。
完全な黒ではない、夜色をした空を仄明るく照らすような白い星が瞬き、その合間をか細い光が時折滑り落ちて消えていく。呼吸を忘れるほどのこの輝きが、比喩ではなくノルンの瞳に映されていた。眩しくて、綺麗で、直視し続けるにはもったいないような気がしたのだ。
「ロクシス、こっち向いてください」
「……今は無理だ」
ノルンの声がすぐそばで微かに響く。そこそこの広さがあるここで、どうして私たちはこうして隣り合って座ったのだろう。
「どうしても?」
「どうしても」
笑みが混じったもの言いが気になる。
「それじゃあ」
とん、と左肩に重みがかかる。そちらを見れば案の定、ノルンが頭を寄りかけていた。
「……えへへ」
「何だそれは……」
「だって、ロクシスがわたしのこと……えへへへ」
「締まりがないぞ、その笑い方は」
反射的に毒づきつつ、ノルンが甘えてくるのは満更でもない。仕返しとばかり、近くに投げ出されていた小さな手を握り――しかし、すぐに考え直す。
「ノルン」
「はい?」
「寒くないか?」
「ちょっとだけ、寒いです」
それを聞けたなら、することは決まっている。
手を解いて、ノルンをなるべく近くに抱き寄せた。一瞬、緊張したように硬くなったノルンだが、おそるおそるといった風に身体を預けてくれる。
「温かい……」
「……それならよかった」
「ロクシス」
腕の中で、ノルンが見上げてくる視線を感じる。
「大好きです」
「……あぁ。私も」
ことばを切る。
ノルンの笑顔を見て、言いたかった。
