02

 鋭いスパイクの応酬の間に甘いトスや辛うじて機能するボレーが挟まり。後はグンナル先輩とニケによる頂上決戦の様相を呈してきたバレー対決は観客数名の歓声でそこそこの盛り上がりを見せている。プレーから外れた私とノルンは湖のほとりで足だけを水に浸けながら勝負とボールの行方を目で追いかけた。機動面で明らかにムーペに利がある気がするがアンナも負けてはいない。

 隣で大人しくしているノルンも、ここに着いてからしばらくの間は湖の中で仰向けに浮かんで冷たさを楽しんでいた。上げた髪にパメラが花飾りを挿した姿には、いつもの清楚さに華やかさが加わる。

「気持ちいいですね、ロクシス」
「……あぁ、悪くない」

 ぽつぽつと申し訳程度に交わされる会話の沈黙すら心地よく。その間、この目はノルンばかり見つめていた。

 ――肩紐や、淡い色のスカートに飾られた青いリボンがひらと透明な水にたゆたうのが。生い茂る森から、葉末からこぼれた光の下でゆったりと瞼を閉じるノルンを眺めた瞬間が脳裏に焼きついて消えない。

 彼女のそばを適当に泳いだり潜ったりしていたのは何かと心配だったからだ。だというのにほんの一瞬の涼しげな光景に心を奪われるなど。気を引き締めなければ――と考える先からニケのスパイクが決着をつけた。同チームのヴェインとアンナの三人ではしゃぎながらこちらにサインを送るのを先に受け取ったのはノルン。

「見てましたよー、かっこいいです!」
「次来るときはノルンも入ってよー!」
「はーい」

 笑って手を振る横顔にも声にも生気が溢れるようだ――と感じるのは、あのどん底を目の当たりにしたからだろうか。淡く色づく頬に跳ねていた滴がきらめくのも相まって、とても綺麗だった。

「何を」

 眩いばかりの視界が揺らいだのは肩に手を置かれたからで。

「見とれている?」
「……そんなことはありません」

 ムーペにボール拾いを任せたグンナル先輩が背後に忍び寄っていたことに若干の動揺を隠せない。反対に喉奥でおかしそうに笑うのをごまかそうともしない様子が妙に悔しかった。この男の不動の余裕には到底届かないように思えて。

「まぁそれは置いておくとしよう。ノルンも復活したようで何よりだ!」
「そうですね。これを提案したのが私ではないというのが心残りだが……」
「何を言う? あいつらも、ノルンだって口を揃えてお前のことを出していたぞ。最初に異変に気づいて世話を焼き始めたのはロクシスだと。胸を張れ!」

 ――景気づけのように背中を叩かれたのにも、それにノルンが驚いて飛び上がったのも意識の外にある。

 ヴェインたちの話を聞いた瞬間からふつりと胸の内が解けるような違和感があった。それがノルンを元気づける決定的な方法を自分が思い浮かべられなかったことへの後悔だと気づくのに時間はかからず。

 そして同時に、全ては杞憂だと。

「そうしますよ。だからふたりきりにしてほしい」
「ほう。言うようになったな」
「何の話ですか、先輩?」
「いや何、邪魔者は退散するのが道理だということだな」

 豪快に笑いながら水面を横切っていく長身を呆気にとられて見送るノルンが残されたら、元通りここには私たちだけになる。二回戦を始めた面々をふたりで見守りながら、しかしこちらは気もそぞろだった。

 今の会話についてノルンに詳しく尋ねられないことを祈りながらの観戦に身が入るはずもなく。