おねだり
ビニール袋ひとつに、カステラ、アーモンドプードル、生クリーム、そしてたくさんの板チョコが詰め込まれた。普段の自分なら罪悪感で腹痛を起こしそうなほど多い。カロリー的な意味で。 袋を持ってくれたキョーヤは、大して苦でもなさそうに手からぶら下げ…
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きみのせい
同じこたつに入った彼女は軽く伸びをした。この家に持ち込んだまま置きっぱなしのぬいぐるみはどこかで見たことのある丸い鳥。それを抱きしめてくつろぐ姿はもう慣れたものだ。「おかえり」「ただいま。これだよ、朝に言ってたやつ」「ありがとう。いい香り…
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マニキュア
彼女の爪は丸くて小さい。ブラシがはみ出ないようにするのに神経を使うとは思いもしなかった。こんなことを休日になる度に丁寧に繰り返す彼女は相当気が長いらしい。 手のひらに乗せた白い指は、大人しく僕にされるがまま。「キョーヤが塗ってくれるなんて…
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体温
「香りに温度はあると思うかい」 おやすみを言おうとしたその唇は、ふとこぼした問いへの答えを持っていない。ゆったりとした瞬きをひとつ、それだけで彼女がよく温まってきたのがわかっただけ。「君から温かい香りがする。柚子だね」「持ってきた分ぜんぶお…
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雪
一年いい子にしているとプレゼントがもらえる日。そう聞いていたのにサンタは予定より少し遅れるらしい。「キョーヤは今年もいい子だったからきっと大丈夫」 そう言って笑ったサンタは今ごろ走ってこちらに向かっている。いつもの道を使っているだろうと当…
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間接キス
「リップバームだよ。こうやって薬指で塗るの」 よりによってデンプンのりと間違われた不憫なアイテムを実演つきで説明する。はちみつ成分配合、なんて宣伝はその通りでひと塗りするだけでいい香りが鼻先をくすぐった。 わたしの指をじっと眺めていたキョー…
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近付きたい
鞄から取り出される厚い本は僕が頼んだものだった。彼女が好きだと言って聞かせてくれる遠い昔の童話を自分でも追ってみたくなったと伝えたときの喜びようは記憶に新しい。「これ一冊だけで有名どころはほとんど読めるよ。なでしことか、いばら姫」「ありが…
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手袋
止めろというのに試した彼女は声を上げて手を引っ込めた。曇り空の下を歩く憂鬱を吹き飛ばすような明るいそれは驚きながらころりと転がる。「氷みたい、雪みたい」「痛いくらいだ」「だからポケットに手、入れてたんだ」 キョーヤにしてはお行儀が……とひ…
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自撮り
隅に彫られた猫の肉球ふたつがアクセント、そんな縦置き用の写真立てを用意したのは正解だったらしい。観念して畳に座り込む彼女の後ろ姿を間近で眺めるのが爽快なのは想定外の幸運が降って湧いたせいだ。デジタルカメラの設定を確認する間もシャッターを押…
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甘える
二度見したのはわたしだけではないはず。隙なんて滅多に見せない風紀委員長、その頭にひょこりと跳ねるのは明らかに寝癖だった。「今日はお寝坊さんだったの?」「君と同じにしないでくれる」「んまぁひと聞きの悪い」 お願い通りに屈んでくれたキョーヤの…
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またね
肩で息をする彼女は風紀委員にセーフをもらってほっと笑みを見せていた。遅刻未遂の自覚はあるようで、乱れた襟を整えながら急ぎ足で校舎を目指す。 彼からは死角で気づかれなかったらしいがこちらからは遠目にもわかった。大振りの花飾りがこの季節にふさ…
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生意気
可愛い、可愛いと、いい加減聞き飽きた。「まさか、まさかキョーヤが、まさか……」「うるさいよ」 額を弾いてやろうかと伸ばした指があっさり避けられるのは想定内。彼女は両腕に抱いた――というより抱きすくめたクマのぬいぐるみを離さない。 ほんの気…
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