RE!ワンライ:雲雀

普通

  うさぎの形の林檎を皿に整列させる指がふと止まる。見上げる視線は慣れているのでとくに返すこともせず残りの数頁を読んでしまおうと文字を追った。微かに色あせた紙面からは、これもまた微かに古い日焼けの香りがする。 しゃく、と瑞々しい音は舌の上に…

おかえり

 眠気に負けて机に突っ伏してからしばらく、意識が途切れていたのに気づいたのは窓の外が暗くなってからだった。カーテンが必要不可欠だった眩しい放課後は遠く、丸一日を待たないと見られない。 そちらへ顔を傾けると、窓に映る教室の中はクラスメイトが残…

やきもち

 家を出てから学校に着くまでの間ぴったりとつけ狙ってくる気配があった。足音のない、走って撒こうとしても離れない根性の持ち主。校門の手前で思い切って振り向いたわたしの目の前で彼は、または彼女は聞くものすべてを震え上がらせる可愛らしさでにゃあ、…

君だけ

 一度目の覚醒は十数分前だった。 瞼を開けるよりも先に意識が浮上する。閉じた視界、その中でもわかる色などないはずの気配はソファーの前で立ち止まってこちらをまじまじと覗き込んだ。 いちばん高いところから落ち始めた日が遮られるちょうどいいポジシ…

帽子

 押さえる手が間に合わず、麦わらの帽子はあっという間に風にさらわれていった。紺のリボンがひらと揺れるのを目で追う動線に飛び込んできたのは空の青、その色を白へ消し飛ばす勢いで猛威を振るう太陽の光。 暴力的な輝きを見たくないがためにサイズの合わ…

本音

  ここに忍び込んでキョーヤが最初にしたのは窓全てを開け放つことだった。淀んだ空気が透明に近づいていくのを感じてようやく息をつくと、まだ足りないとばかりにぱたぱたカーテンをはたく音が二階から落ちてくる。ここで褒められたものではないのはわたし…

構って

  リビング。 玄関。ベランダ。 窓辺。その向こう、屋根の上。 最後に彼女の自室を探してもその持ち主は見つからず。壁かけ時計やカーテン、その他ほとんどがふわりとしたパステルカラーをしているここはまるで夢でも見ているかのように現実感がなかった…

嘘つき

 一冊分。 ぽかりと空いた本棚の隙間が妙にもどかしかった。わたしのものだからここにあるのが当然なのに、こうして突然なくなってしまうとどうしても題名が思い出せない。通学路にできた解体現場に元々どんな建物があったか言えないのと似てる、と場違いに…

きらきら

 目を閉じていると、光は瞼の向こうから注ぐ。空に薄い雲がかかっているこの時刻なら暑くも眩しくもなく眠気を妨げることもなかった。葉擦れの音が運んでくる睡魔を心地よく受け入れるその横で、屋上へ道連れにしてきた彼女は起き上がってじっと空を見上げて…

ほっとけない

 絆創膏、消毒液、ガーゼ、テープ。彼女が机に並べたそれら全て不要なものだった。きょとんと目を丸くするのは三つ積み上げられた脱脂綿の空箱の傍ら。「怪我なんてしないよ」「わかってる」 応接室に近寄ることも叶わなかった生徒数人が風紀委員に運ばれて…

馬鹿

 狭い部屋ひとつ、真ん中には彼女のための椅子が一脚。小さくなってぽつねんと座り込むその周りは鉢植えと花瓶が何十も取り囲んでいた。曇り空はその影を淡く落として。 空き教室のアイボリーをした壁に這う蔦はまばらで、辛うじてここが廃墟ではないことを…

別れ

「……は旅立ちの季節であり、同時に新たな出会いが訪れる季節であります。卒業生諸君、私はこ」 断続的で耳障りな金属音が長引くことはなかった。困惑の声を上げて立ち上がった彼女はビデオデッキの前で膝をつきやがて肩を落とす。こちらとしてはわざとらし…