RE!ワンライ:雲雀

雨宿り

 雨音にかき消されかけた微かな声に気づき小走りにたどる。公園のベンチを覆う申し訳程度の屋根の下に体をねじ込んだ途端さらに激しく降り始めたのを彼女は気にもとめずに足元に放った学生鞄の持ち手をたぐった。「わぁ、キョーヤ濡れたねー」「君は平気そう…

嫉妬

 縫い目、綿の詰め具合、やっと納得のいく出来になった。「ぬいぐるみが綻んだ」 それだけのこと、とキョーヤは呆れたりしない。小さな頃からわたしとずっといっしょにいる友だちだと知っているからだ。「涙目で玄関に出てくるから何かと思ったよ。その子か…

あーん

 その指に摘まれるのは兎のりんご。結構な自信作なのにこんな指摘が飛んできた。「どれも左耳だけ大きいね」「……畑で西日に当たりすぎたんだよ」「そう」 深く突っ込まれないのは情けをかけられているのかもしれない。それにしても応接机を挟んでふたりで…

特別

「まだあんまりお腹空いてないから、スープにする」 返事はしても、視線はショーウィンドウの向こうに引き寄せられる。キラキラしたハイヒール、ひらひらしたスカート、それを完璧に着こなすのはすらりと背の高いマネキンだった。多少の段差はあれど、多分わ…

らしくない

 ソファーに横になったまま動けなくなっているのを初めて見た。眠たいのでも暇なのでもなく、発熱で。「保健室行こうよ」「ここでいい」「わかるけど……」 座面からはみ出たつま先は微動だにしない。脱いだ学ランを上掛けがわりに両手をお腹の上で組んで、…

おうちデート

 夕焼け空が少しずつ陰るころ、通りには子どものさわめく声が遠ざかっていった。ベッドから起き上がって窓を開けると、魔女や狼男……のころころと小さいのが列になって商店街へ歩いていく。少し後ろを、懐中電灯を持った大人が三人。 毎年恒例、町内会のハ…

赤い糸

「運命の相手とは、赤い糸で手の小指どうしが結ばれてるんだって」「知ってるよ。こっちの方が確実なのにね」「物騒すぎる、しまってしまって」 どこから出したのか、というか何で持っているのかやたら棘のある手錠をキョーヤが渋々片づける。確かに、糸は確…

お揃い

 お湯で取れるマニキュアがあると教えたときから、キョーヤは興味津々にわたしの指先を眺めることが増えた。「これも胡粉ネイルなの」「うん。風紀委員長的にはどうかな」「休日なら何も問題ない。だから僕にも」 そうやって差し出された両手、その指先を彩…

約束

 壁のカレンダーに丸をつけるのを、隣からの視線が追う。「嘘つきは針千本飲むんだってね」「そこでロールちゃんを見ないで……」 ぷるぷる震えるハリネズミをその手から引き取ると不満げな視線が返ってきた。「君が何考えてるかわかるよ」「状況が状況だか…

夕焼け

 帰って来るひと、逆に帰って行くひと、夕方の駅は帰宅ラッシュでそこそこ雑踏している。そんな中でも、横合いからわたしを呼ぶ声だけははっきりとわかった。 「カクテルパーティー効果だね。騒がしい場所でも自分に関わる内容だけは聞き分けられる」「へー…

 刺すような冷気が錯覚とわかっていても一瞬気を取られる。頁の端が指の腹を深く裂いたのを彼女は目の当たりにしていた。大慌てで鞄を探り始めるのが他人事のように映る。「待ってて、絆創膏……」「怪我したのは君じゃないでしょ」「痛いってわかるもん」 …

いっしょに帰ろう

 通学路の途中に建てられた掲示板は所々が錆び、赤い下地が覗いている。そんな有様の中、新しく貼られた広報は白く浮いたように目立った。日の落ちた下校時間というのもあるかもしれないけれど。「お祭り? こんな時期にあったっけ」 並盛神社に何とかとい…