RE!ワンライ:雲雀

メッセージ

 放課後までひとことも話さないと決めていた。それは誰に対しても変わりない。「わかった」 喉を指さした瞬間キョーヤは断言してくれた。席を立ちながらコートとマフラーを手に取り、積まれた段ボールに向かおうとしたわたしを止めて。「それはいいよ、明日…

おまじない

 絆創膏を構える手を避けることも跳ね除けることも、とうの昔に諦めた。こういうときの彼女はやけに頑なになる。「もう、また乱闘して」「僕は何ともない」「でもここ、切れちゃってるよ」 頬を指さされ、痛みのない負傷に気づかされる。もがく相手の爪でも…

視線の先

 ジャージの袖がまくられると白い腕が筆先の黒によく映えた。半切に向かったまま、彼女は微動だにしない。「何て書くんだっけ」「部活動壮行会。気合い入れて書いて」「任せてよ。キョーヤは休んでてね」 微笑む横顔は、ある一点を境にふっと無表情に近くな…

背中

 こちらが手を出す間もなく、窓辺に陣取っていた丸い鳩はどこかへ飛び立っていった。何とも頼りない声は羽ばたきの後、おずおずと。「行っちゃった?」「行った。だから言ったでしょ」「あんまりすごい勢いだったから」  開け放っていた窓めがけて突っ込ん…

こたつ

 アイスとみかんの二択。右手の方を取られる可能性など考えているのだろうか。左手から土産を受け取ると、彼女は「予想通り」と頷いて笑う。「わざわざ温まりながら体を冷やす意味はあるの」「あるの。温かいところで甘いものを食べると幸せになれるんだよ。…

夢で逢う

 色のない景色だった。小さなプレートを戴くホールケーキと、皿からはみ出るほど大振りな葉を敷いたサラダ。テーブルに並ぶのは、自分だけならば絶対に用意しようとは思わない食事たちだった。まるで何かのパーティのようにささやかな、本来は色彩に満ちた光…

駄目

 黒髪に隠れた額が滑らかなこと。これは手のひらで覚えた。 頬をくっつけると温かいこと。もちろん、これは頬で。 それなら、唇は?「だめだよ」 眠たげなのにきっぱりと断じて、首を横に振るのが答え。「唇も、指でもだめ。君にはさせてあげない」「どう…

返事

「何」 目の前のおまんじゅうが返事をした。  こんもりと大きな塊は白く、近づけば真新しい眩しさを纏う毛布だとわかる。ソファーの上でじっと動かない丸の端からは、靴下のつま先がほんの少しだけはみ出ていて――用もなくこの部屋に来たのは正解だったら…

見せつける

 キョーヤが首を傾げる後ろ、窓の向こうからほとんど毎日のように女の子たちの見上げる視線があることはずっと前から知っている。こんなにかっこよくて優しいキョーヤのことだから、好きになるのはとてもよくわかる。わたしだってそう。けれど情けない焼きも…

運命

 クマを抱えて扉の前に立ち尽くした彼女を部屋に入れてからというもの、数分。「びっくりした。キョーヤ、起きてたんだ」「何となく眠れなかったからね。ここに降りてきた」 やっと話し始めたかと思えばこれだけだった。聞きたかったのはその表情の理由で、…

風邪

  ノイズが聞こえる。遠くでテレビでも見ているのだろうと考え、しかし本当にラジオが混信していることを認める。ここ何年も電源を入れた覚えがないのだから、そもそも中身がだめになっているのかもしれないが。 こんな状態では感覚なんてものは…

おしえて

 「前より星が少なくなった気がする」「また読書かい。そうやって夜中に酷使して目が疲れたんだ」  星は減ってない、そうつけ加えてキョーヤは大きな手のひらでわたしの視界を塞いでしまう。温かな暗闇は、届かなくなる光の代わりに音…