揺らぐ
携帯電話を片手に一旦部屋を出て行った背中を見送ってベッドに腰かけると、ふと棚の上のスタンドミラーが目に入った。後ろでまとめた髪が少しだけ緩んでいるような気がして整えていると、それを見つめる視線に気づいた。ベッドの隅っこで、じっとしている丸い…
RE!ワンライ:雲雀雲雀
そばにいて
首の皮膚に爪を立てると鈍い痛みがある。自分のコントロールが効いてこの程度で済んでいるのなら、他人にされたらどうなるんだろう。こんなことを頼む相手もいないけれど。 今このときのように、きっと怪訝な顔をされてしまうから。「怪我したいの」「猫の…
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指輪
青と白、たまに黄色。プラスチックの蓋に広げた透き通るビーズをテグスの先で掬い上げては通していく。一連の動きを追うのはゆっくり瞬く目。「何を作るんだい」「花の飾りの指輪だよ。さっき手芸部の子が余りを分けてくれたの」――そう答えた直後に差し出さ…
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震える
日中は暑いだろうと半袖のシャツを選んだのが間違いだった。ほとんど雲に覆われた空の下では、そよ風とは呼べない強風が気まぐれに吹き初めて。「寒い。寒くない?」「寒くない」 カーテンを全開にしたのは、申し訳程度の日光を浴びるため。平然と返してみ…
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お出かけ
忘れたわけじゃないと言い張るその顔に差す影がある。まだ強い日差しを遮ろうとかざした手のひらは頼りなく、続く手首には血管が透けて見えそうなほど。「待ってるから、取りに戻りなよ」「いいのいいの。すっごく楽しみにしてたんだもん、早く行こうよ」駅を…
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花占い
「君の願いは叶ったのかい」揶揄するでも急かすでもない、静かな視線。秋の気配を見せ始めた木々の下へ腰を落ち着かせて、突っ立ったままのわたしを見上げて。昨日、今日の話をされているわけではなかった。これは何ヶ月も前、ここへ散る桜の薄紅が舞い飛んで…
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もう一度
前回のお泊まりは真夏。そして今は秋の入口。というわけで、同じ装備では厳しいことはとてもよく理解している。ひらひらの半袖では、このごろの夜の気温に耐えられない。「似合ってたのに。リボンとか」 そう言いながらキョーヤが首を傾げるのは嬉しいけれ…
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手紙
力を抜けば文字が掠れて、力を込めるとペン先がぱっくりと割れインクがあふれ出る。薄い紙の向こう側にまで滲むように思ったのか、彼女は慌てて便箋を持ち上げた。「難しいよ」「こればかりは慣れだからね。毎日使うといい」「そういえば、キョーヤはどうし…
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まだ
どこに行くの、その質問に答える必要はなかった。彼女は毎朝この建物の真横を通り過ぎて登校している。それくらいの情報は掴んでいた。わからないのはその声の理由だった。震えて、呼吸をするのが精いっぱいとわかる様子は無理をして話すことでなおさら酷くな…
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夏のせい
オレンジジュースを注いだグラスから、かろん、と涼しい音がした。とはいえ氷の溶ける音で気温が下がるはずもなく、頭がのぼせるような熱気から逃れようと屋根の影に戻る。今まで直そうと粘っていた風鈴は、そもそも風がなければ鳴らないのだった。「よくそ…
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夏祭り
わたしの両腕を広げてぎりぎり足りるほど、水槽代わりのプラ舟は大きかった。その中で泳いでいる金魚はなぜだか1匹だけ。箱の色を透かすほど薄い尾びれがひらひらと揺れるのが、うちわを仰ぐようで涼し気な気持ちよさ。「よほど腕のいい客がいたのか」キョー…
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薬指
「この前従姉と歩いてたらね、商店街のおじさんたちがみんなして奥さん、奥さんって呼び込みしてきたの。何でかな」「指輪を目印にしたんじゃないの」「あ、そっかぁ」立ち並ぶお店の通りがかりにまたしてもお嬢ちゃん、と呼ばれたのは夕暮れの帰り道も中盤に…
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