声
ラジオみたい、と、怪訝そうなことばはいつもと変わらない透明な響き。「僕は携帯だよ。電波が悪いのかもね」「あ、そっか。いいなぁ、わたしも早く携帯欲しい」 その後にカメラつき、パステルカラー、ストレート型と注文がつくのは耳にたこができるほど聞…
RE!ワンライ:雲雀雲雀
心臓の音
時計の針と同じに思えたリズムが実はほんの少し急ぎ足だったことに気づいたときから、鼓動と秒針はだんだんと大きくかけ離れていく。疲れて眠り込んだ彼女の体温は既に戻りつつあり、反比例して元々目が焼けるようだった窓の外は眩しさを増した。あの中を走…
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名前
音に色はあるか。その答えは否だとばかり考えていたら彼女はそうではないと言う。そう感じる者は少なからずいるとも。「たまに、ドレミに色がついてるときがあるよ。ドは赤で、後は順番に虹の色」 そうして教室の窓から身を乗り出した彼女の視線の先には音…
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言わせて
その目がわたしの前で微かにでも不快感をあらわにするのを初めて見たかもしれない。やや性急にテーブルに戻されたマグカップが大きな音を立てて中身を波打たせた。白い雫がひとつ跳ねては落ち、その水面は奇妙な形の波紋がぶつかり合って打ち消されているは…
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君なんて
あんなに腹が立ったのもあんな暴言を吐いたのも久しぶりだった。頭に血が上るのは一瞬で、そしてじわじわと冷えていく。お互い短気なわたしたち、けれどその気持ちが相手に向くのは本当に珍しい。だからこそ衝突から数分後のこの寒気と胃痛に慣れる日はきっ…
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失恋
「振られた」 そう告げた瞬間にアスファルトへ倒れ込みそうになるほど驚いていた彼女は、今は落ち着いて花壇を囲うレンガへ座り込んでいる。真後ろに咲いたアネモネは赤い頭を垂れていかにも生気を失い。「告白したの?」「したよ、今朝。軽く受け流された…
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雨
朝早くここから出かけていった住人を待っている間に、窓を叩く雨音はどんどん激しさを増していった。そういえば傘を持っていなかった気がする。持っているのも想像できないけど――そんなことを思いながらやっとのことで探し当てたバスタオルを広げた。 ち…
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不意をつく
こう静かだと本をめくることすら慎重になってしまう。英和辞典の一頁はとても薄く漫画とはわけが違った。ぱりぱりと側面を爪弾くようになるわたしへ、向かいから怪訝そうに投げかけるのはたったひとりだった。ここにはもうほかの生徒はいない。「爪研ぎは…
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涙
小さな手で前髪をかき上げられた次の瞬間に目元に押し当てられたのは布の肌触り。彼女にしては容赦のない勢いに驚きよりも好奇心が勝り、ミント色をしたハンカチを剥がしてその目を覗き込んだ。微かに強張った視線はたしかにこちらに向けられ、水面に揺れる…
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桜
彼女が下校中に足を止めたのは橋の上で、川を緩やかに流れていく花びらの塊を楽しげに見下ろしている。すぐ背後の公園には桜の木があるというのに――ほとんど花を散らした惨状を頭上に抱えてはいるが。「これ、何て言うんだっけ」「花筏」「あ、それそれ。…
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囚われる
最後の一輪が円を閉じ、掲げられたのはお世辞にも美しいとは言えない花冠だった。摘み取ったシロツメクサの鮮やかさも大きさも不揃い、だが互いの結びつきだけは強固な歪を彼女は誇らしげに空の青へかざす。「ずいぶん上達したね」「キョーヤが教えてくれ…
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手料理
ほろりとした甘みが舌先に柔らかく広がるのが心地よくて、いつもよりゆっくりと味わった。机の向かいでは同じ光景が展開していて、けれどお互いの前に置かれた弁当箱には真逆の食事が詰まっている。「キョーヤのおうちの卵焼きは甘いんだね」「君のところ…
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