わたしの両腕を広げてぎりぎり足りるほど、水槽代わりのプラ舟は大きかった。
その中で泳いでいる金魚はなぜだか1匹だけ。箱の色を透かすほど薄い尾びれがひらひらと揺れるのが、うちわを仰ぐようで涼し気な気持ちよさ。
「よほど腕のいい客がいたのか」
キョーヤの予想は当たりで、美女と赤ん坊のふたり組に乱獲されたのだとお店のおじさんは涙ながらに語った。わたしたちを指して、こういう風情のある格好でとても似合っていたとも。
頼み込んで浴衣を着てきてもらって本当によかった。肩を落とすもうひとりを放って金魚に見入っているキョーヤをそうっと眺め、心の中だけで小躍りする。学ランはもちろん浴衣だってかっこいい。大人っぽい気がする。
――かくして、すっかり商売する気を失くした店主によってわたしたちは残った金魚を譲ってもらうことになった。
「いいのかな」
「一回分の料金で一匹しか釣れないのは問題なのかもね」
商売はそういうものなのかもしれない。難しいことは置いておいて、小さなひもつき袋を指先に引っ掛けるキョーヤの隣を歩いた。たこ焼きかチョコバナナか、どれがきっかけなのかはわからないけど今日はどこか上機嫌な足取り。そばにいるだけで嬉しくなってくる。気づけばキョーヤの一歩先へ進んでしまうくらい。
「そんなに金魚がほしかったの」
「ううん、キョーヤと遊べておいしいもの食べて楽しいなって」
「……その顔、そういうこと」
ふと伸びてきた指先がわたしの頬を拭っていく。
「カスタード。気づかなかったのかい」
疑問に疑問で返されるのがなおさら恥ずかしい。口に含まれるクリームを恨めしげに眺めたって、こうまではしゃいでいたわたしからすれば自業自得そのもので。喉の奥で笑うその声だって楽しそう。
「それなら、この子は僕がもらう」
「キョーヤのお家? いいの?」
「これくらいなら邪魔にもならない。見に来るでしょ」
もちろんと頷く先には、目を細める笑顔がある。いつも優しいそれが今日はもっと柔らかいのは、吊られる提灯の下だからかもしれない。夜空の下でほの明るい光は、黒々と綺麗な瞳の中にも灯っている。
「君に引っ張られて来てよかった。これからはもっと会える」
その装いも可愛い、と聞こえたのは都合のいい空耳のような気がした。ふわふわとして落ち着かなくなって、意地悪に笑うのを見上げることしかできない。もう一回言ってと迫ってみたら真相がわかるのかもしれないけど。
