クロト

カルテット

  寝たふりをするとどうしても目元に力が入る。自覚はあっても続けなくてはいけないシチュエーションがあるだなんて思ってもみなかった。まぶた越しの暗がりに突然灯された暴力的なほどまぶしい照明は、薄目を開けて周りの様子をうかがうことすら…

アイリスアウト

  屋内に逃げ込む手段は封じられ、申し訳程度の庭に据えられた倉庫の影に身を隠した。息を整える間も、ドアの開閉する音が止まない。 こんなことになったすべての元凶が何だったかを思い出す暇もなく、唐突に足元に撃ち込まれる一撃をぎりぎりで…

まだら

 奇妙な声。 幻聴だとわかっているのはいいことなのかどうか。 ことばの形を持っていない、輪郭のあいまいな響きは絶えず脳裏に直接叩きつけられていた。不快さとともに耐えられないほどの冷気が背筋を伝って全身へ広がっていく。 医務室のベッドに横たわ…

犠牲バント

 「じゃあ次、必殺技といえば?」 わたしの質問にしばしの間を置いてそれぞれの答えが部屋のあちこちから返ってくる。「……アバンストラッシュ」「超究武神覇斬でしょ」「波動砲しかないな」「オルガのは技じゃなくて武器だろ。判定」「うーんヤ…

四天王

 「悪の幹部っていいよな」 言い出したのはクロトだった。おのおの適当に暇を潰している(ひとり業務に追われている者もいる)なか振り向くと、彼はいつもとは異なる携帯ゲーム機を握りしめている。「新しい支給品か?」「いやの私物からパクった…

se-cure.

 2022年09月18日 イベント「夢道楽オンライン4回目!」にて頒布。ガンダムSEED旧連合トリオの短編集でした。サイト再録。 初めて自分で表紙・裏表紙・カラーページのイラストを描いた本でした! トリオの私服はそれとなく本編中のカラーリン…

先制攻撃

 前々回のくすぐり。 前回の猫だまし。 そして今回、ペンライトでの目くらまし。 目の前にはナイフがある。 その向こうには喜びを隠しきれない唇が。「レギュレーション違反でしょ!」「実戦にレギュレーションも何もないだろ!」 続く正論がとどめにな…

アリアドネの糸

 少しの身じろぎの後、隣に覚醒の気配があった。わざと本体の音量を上げておいたのが効いたらしい。ふたつ隣のシャニはカーテン越しの朝日にも負けず熟睡しているが。「……クロト?」「ん」「何でここにいるの……」「起こしに来たけど止めたんだよ。で、く…