鼓太郎

ミルクティー(レモンをひとしずく)

  そのまま聞いているといい。「僕はただ心配しているだけさ」 スプーンでカップの中身をぐるぐるとかき混ぜる手を止めないのは、琵琶坂となるべく目を合わせないためだ。ほのかな湯気が目を温めていくのが気持ちよくて、そのおかげで何とか平静…

愉快犯のパンプキン

 「いいのよ、イタズラしても」「むしろどんとこい、よ」「き、き、来てください!」「撮らないから、ね! 約束するからー!」「どーんとぶつかってきてください!」「僕の」「みんな酷くない?」「鍵介に対するお前の態度のほうが酷い」 トリッ…

林檎の日

  彩声の目線は外れない。赤い頬。とろんと眠そうな目(これはいつも通り)。この一時間で三回ほど転びそうになった両脚。普段の三十倍は隙だらけの鞠音は、体育の授業のために着替えていた手を止めてぼんやりと突っ立っていた。体操着の袖から腕…

烏羽の秒針

 怒鳴り散らす声がする。悪態で返す声がする。その様子を面白おかしく言いふらす声。誰にも聞こえないため息。すすり泣き。音ばかりが、きつく閉じた暗い視界に積もっていく。 そう遠くない未来、頭の先まで隙間のないミルフィーユになるのだろう。お腹の中…

年長会議の議題にされるこた主

『一年トリオと別れてそっちに向かってる』 帰宅部のWIREグループに届いたそんなメッセージを最後に、鞠音から連絡はない。音楽準備室ではそれぞれがGossiperを眺めたり雑誌を読んだりと好き好きに過ごして彼女を待っていた。琴乃があんな口火を…

ロードムービーしたかったこた主

 一礼して生徒が走り去っていく。それを眺める鼓太郎は満足げに頷いてハイタッチを求めてきた。いつも輝いている瞳が今日はさらに眩しく映るのは、温泉前の広場に飾られた綺麗な照明のせいでもあるかもしれない。「またひとり救っちまったな!」「爽快だね」…