「いいのよ、イタズラしても」
「むしろどんとこい、よ」
「き、き、来てください!」
「撮らないから、ね! 約束するからー!」
「どーんとぶつかってきてください!」
「僕の」
「みんな酷くない?」
「鍵介に対するお前の態度のほうが酷い」
トリック・オア・トリート! その返事が揃いも揃って「さあイタズラしてくれ」だったというこの部長。今は何の収穫もないのを嘆いてめそめそと机に突っ伏している。夕方にこんなことをするものだからますます湿っぽい。
「全員に言って回ったのか? え、琵琶坂は?」
「両腕広げてにこにこ頷いてた……」
「へー……え、峯沢は?」
「何だその呪文は、って。で、教えたら、いいぞ好きにしろ、って……」
「……おー……」
めちゃくちゃ想像できる。
ともあれ、この結果はある意味好意の裏返しというのは傍から見てもはっきりしている。すっからかんの籠を放ってしょげているこの下級生の部長にはわからないだろうけれど。
「お腹すいた」
問題はそこか。
「で、鼓太郎は?」
「は?」
「トリック・オア・トリート」
「今言うか!?」
「だって今日はお菓子のためにお弁当抜いたんだから」
「どんだけ食うつもりだったんだよ」
「それはもう、たくさん」
頼みの笙悟はさっき出て行ったきり。多分、こうなることを予想して。仲間が食料を強奪されると悟ってなお黙ってずらかるなんて。部室にはふたりだけだ。
「気利かせたつもりかよ……」
「き?」
「うわ何でもねぇ!」
何でもなくはない。とにかくこのピンチを切り抜けるのが先決だ。
鞠音は期待と不安が入り混じった視線で見上げてくる。
「あ、そ、そーだ」
本当のところ、クッキーならポケットに入ってる。けれどそれをすぐバラすのはもったいない。
「俺が先だろ? ほら三年だし」
「えっ」
「えっ?」
「あっ、そうだったね……」
本気で忘れられてたっぽい反応は後で問いただそう。これはだめだろ、早く先輩の威厳を見せないと。
「んじゃ、トリック・オア・トリート! お菓子をよこせ!」
「わたしはお菓子もらう側だもん、持ってない」
「強欲だな!」
――ということは、俺にはイタズラする権利がある。
「よーし何してやろっかな……」
普段とは立場逆転だ。このチャンスに、鼓太鼓先輩を尊敬することをどう教えてやろうか。
「で、鼓太郎は」
鞠音は期待と不安が入り混じった視線で見上げてくる。
「どんなイタズラするの?」
大人しくクッキーを差し出さなかったのをとても、とても後悔した。かぼちゃの頭がにやにや笑った、いかにも甘そうな一枚。
