「じゃあ次、必殺技といえば?」
わたしの質問にしばしの間を置いてそれぞれの答えが部屋のあちこちから返ってくる。
「……アバンストラッシュ」
「超究武神覇斬でしょ」
「波動砲しかないな」
「オルガのは技じゃなくて武器だろ。シア判定」
「うーんヤマトといえば波動砲だからセーフってことで」
手元のテンプレートに結果と秒数を書き込んでいると、ストッパーを外した椅子のキャスターでがらがらと滑りながらクロトが割り込んでくる。その目は興味深げにペンを追って。
「好きな香りやら得意な訓練やら、さっきから何?」
「簡単な検査だって。質問で連想した答えとか、かかった時間でパーソナリティを測るとかなんとか」
かくいうわたしも、マニュアルとテンプレートを押しつけられたのはつい昨日だから詳しくない。とれたデータの分析は研究グループに任せるらしい。
「ふーん、やった覚えあるようなないような。で、次の問題は?」
「えーっと……野球といえば?」
「野球か。あんま知らねーんだよな、ホームランだっけか?」
オルガがぱたりとペーパーバックを閉じ、記憶をたどるように天井を仰いだ。真新しい照明はまぶしくて、わたしには目に痛いくらい。
「ここの奴らが放送見てるのをチラ見したくらいで」
「僕もー」
「そっか。じゃあこの項目はパスにしよう」
「後は全部パスでいいから」
「えぇ……」
「飽きた」
寝転がっていたソファーから起き上がり、シャニは軽く伸びをしながらあくび混じりに続ける。
「ここに来るまでに検査もテストも何百回とやってきたんだぜ」
「ま、数分後にすぐ必要なわけじゃないんでしょ? 僕たちは休憩休憩」
クロトの手がペンもテンプレートも引き取っていってしまうと、あとのふたりは両サイドからそれを読み始める。オルガは難なく視線でたどっていくけれどシャニは途中で諦めたのかげんなりと目をそらして。
「字こまけー……」
「こんなもんだろ。へー、いろいろ設問があるのか」
「ねえアリーシア、これ聞かせてよ。得意なスポーツは?」
ふと、クロトがいたずらっぽくわたしを見下ろした。
「どんくさそーだけど何かあるの?」
「んまぁ失礼な」
今吹き出したのはシャニ。隠さずに笑うオルガはなお酷い。
クロトの笑みを含んだ視線の意図をやっと理解して怒ってはみるものの、同時に考えてもみる。
「んー、水泳……?」
「意外。シア泳げたんだ」
「カナヅチ寄りだと思ってたけどな」
「……後でオルガのスコア適当に改ざんしちゃおっと」
「おいふざけんな!」
「はいはいうるさいよお前ら。次! 必殺技といえば?」
「えーとえーと、リボンストロベリーチェック」
とくに時間制限を課されたわけではないのに、焦っている自分がいた。
そしてそのわけにすぐに気づくことができる。こうしてわたしが徹底して何かを知られる側に回ったことがないからだ。そしてそれは三人にも言えることで。
「したことなかったもんな、こんなこと。へへ、なんか尋問みたいで楽しくなってきた!」
――その言いようはともかく。
「お、さっきのはこれか。野球といえば?」
オルガが指さした設問を、なにとはなしに見下ろした。
わたしだってじっくり取り組んだことはない。こうして海に出てしまっては、いつ本物を目にすることができるか。
「……犠牲バント?」
「何それ知らない」
「俺も」
「僕もー。作戦か何か? アリーシアはできるの?」
「あんなすごいのできないよ」
「シャニそこの端末よこせ。ライブラリ見ようぜ」
いつしか野球観戦の場となった待機室、慌てて残りの検査を終わらせることになるのはまた後の話。
「今度上陸できたらドームに行きたいね」
「申請通るかなー?」
「普段から暇してんだし。それくらいさせてくんねーの」
「最悪、ここの甲板から双眼鏡だ……お、行けるか?」
言いかけたオルガが盗塁のチャンスに釘づけになる。クロトもシャニも、歓声を上げる画面の向こうに同調してヒットや得点に目を輝かせた。
「なぁアリーシア、どれが犠牲バントだ?」
「いつも出てくるわけじゃないよ。試合によって変わるからね」
「この後に見る動画も探そっと」
「俺ドリンク持ってくる」
それは艦長への直談判も辞さないと思わせるような、熱のある光景。
ランダム単語ガチャ No.5891「犠牲バント」
