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 校舎の最上階には、多目的ホールとまではいかないがそこそこ広い会議室がある。折り畳みの長テーブルとパイプ椅子をそのままに席を立つと、部屋のあちこちから金属の軋むぎいぎいとざらついた音が響いた。

 学内すべての部活から部長が集まったのだから、出ていくのは結構な人数だ。ふたつしかない出入口の混雑をなんとか切り抜けると、窓を開け放っていた廊下の空気が冷たく感じる。

 そんな中を、人の流れを逆流するように男子生徒が向かってきていた。眉間に皺の寄りかけたやや不機嫌そうな。そういえば、次の会議室予約の枠は寮長会議だった。ということは彼がそうなのだろう。

 入って、と中にいた教員に促されるまま後に続こうとした彼の足がふと止まる。何とはなしにながめていたその姿は、やがて肩をすくめてもと来た道を振り返った。追いかけるように早足でやってきたのはクロトと、あとは上級生ふたり。いかにも眠たそうな男子と、もの珍しげに会議室周りを見回す女子だ。

「あれ? 何でオルガがいんの?」
「何でも何も寮長が呼ばれたんだろうが」

 人波から取り残されかけぼうっとしているぼくが悪目立ちしそうなので、そそくさと壁の掲示板の方へ退避する。それでも耳は彼らの声を追っていた。特待生がそろっているのを目にしたのは初めてだ。いかにも孤高、秀才な出で立ちをしているのかと思ったらそんなことはなく、集まって話し始める様子は普通のグループといった雰囲気。

「寮長って、つまりリーダーでしょ? じゃあ僕だよ、いちばん力仕事してるし」
「バカ言うな最年長の俺に決まってんだろ」
「わたしわたし。毎回収支報告作ってるもの、大仕事だよ」
「シアのそれはほとんど俺が数字出してるし。俺だろ、ここは」

 ――若干険悪寄りか。全員がむむっと黙り込む数秒が離れているこちらにも伝わってくる。緊迫のあまり立ち去ろうとする脚が動かないありさまだ。寮生活がいつもこうなのだとしたら空気がとんでもなくピリついていそう。

「に、庭のお手入れもしてる……」
「それはありがとうだけどさ。そういやシャニはこういうのめんどくさがるじゃん、いつもは?」
「いや、寮のテッペンが呼ばれたっていうから来た」
「あぁ? お前が寮のテッペンなら俺は屋根の上だろうが」
「こういうの限界突破って呼ぶんだよねクロト」
「突破しすぎて雨風防ぐ側になってるってやつだよねアリーシア」
「ガキども……」

 いちばん背の高い男子が拳を握る。いよいよ乱闘か取っ組み合いかといった頃合いで、教員の呆れた催促が部屋から飛んできた。彼にしてみれば用が済むなら相手が四人のうち誰でもいいらしい。帳簿の上では寮長欄は誰の名前が埋まっているのやら。

 そういった正式なことはさて置いて、今度は彼らの間に思案に沈んだ無言が落ち。

 全員が会議室に入っていった。

「寮生は俺たちだけだしな」
「ひとりでも四人でもいっしょいっしょ」

 クロトの軽口を最後に引き戸が閉じ、廊下には恐ろしいほどの静けさが戻ってくる。そよ風に揺れる掲示物の角がぱたぱたと乾いた音を立てるのすら聞こえるほど。

 この静寂の中ならすぐにでもアイデアをまとめられるかもしれない。

 ポケットから急いでスマートフォンを取り出し、メモアプリを開いた。次の部誌に載せる短編のテーマはこれだ。あの寮の住人は全員、自分がまとめ役だと思っているおもしろ――もとい半端ない集まりだと。

 

ランダム単語ガチャ No.2030「運営」