RE!ワンライ:ディーノ

ゆるさないで

 暗い舞台の上でスーツのおじいさんが倒れるのと、袖から現れたこちらもスーツの男のひとたちが彼をやや雑に運んでいくのはそこまで間を空けなかった。たったひとりだけでここに座っていたわたしは、これが演出なのかハプニングなのかわからないまま開かれた…

守りたい

 窓の向こうで響くサイレンを溶かすように、大気の透き通るさまそのものの音が手のひらに落ちてきた。編んだ紐が括られた鈴はそれを追いかけ、彼女がひっくり返した和紙の袋から丸い体をころりと一回転させながら滑り降り軽く跳ねる。「この前行った神社で見…

手の甲へのキス

 王子様みたい、そんな比喩を向けられたことは初めてではない。けれど彼女からそう告げられるのはどこか腹をくすぐられるように落ち着かなくなる。決してからかいではない正直な視線も合わさればなおのこと。「オレのどの辺でそう思ってくれたんだ?」「乗馬…

爪先へのキス

 メトロノームのような等間隔。何分もシンクを叩くのが蛇口から垂れる滴だと気づいてからここまで来るのに四十二秒を要した。とにかく体が重い。数歩進めばこの部屋に相応しい簡素なベッドが待っていたというのに昨日はそんなことすらできずにソファーへ沈み…

お揃い

「あんまり外が眩しいから、最近いろんなものがよく見えなくなるの」 窓の外を見下ろすと、午後の強い日差しを鋭く跳ね返すものはいくつもあった。綺麗に磨かれた車体、朝から残る水たまり、極めつけはとなりの棟の白い壁。今からあの中を歩くのだと考えるだ…

寂しい

 周りからのお祝いの品に囲まれた彼女は通話のはじめこそ笑顔だったが次第に沈みがちになっていく。その後ろに陣取る、きらびやかな衣装の人形たちも十年来の友人の憂鬱を感じ取ったのか顔色が悪く映った。ちらし寿司も甘酒も雛あられも彼女を元気づけるには…

おやすみ

 ふわふわのタオルケットともこもこのぬいぐるみが次々に詰め込まれていく。当然テレビのリモコンは没収され。「あ、今日はまだゲームしてない」「だめだだめだ、子どもはすぐ横になる!」 ベッドに放り込まれたところで眠くないものは眠くない。ディーノが…

指切り

 絶対にここに戻ってくる。そのことばを信じることに何のためらいもないとはいえ、それはいつごろ? とまでは聞けないのがもどかしい。この綺麗な金髪を指で撫でられるのは、あの大きな手が髪を撫でてくれるのは何日後になるのだろう。 あんなに楽しかった…

情けない

 重みのあるものが倒れる結構な物音で自室に駆けつけてみれば、ディーノが勉強机のすぐ前で尻餅をついていた。その足元には、落ちて散らばってしまったらしいチラシが何枚か皺になって重なっていて。「ごめんね、片づけてなかった」「いや、オレの不注意だよ…

そばにいて

  彼女は小さい。そうからかうと「ディーノが育ちすぎなの」といった反論が飛んでくるのはお決まりのやりとりだった。「わたし、これからどんどん大きくなるよ。ディーノ腰抜かしちゃうかも」「期待せずに待ってるよ」 こうして真正面から抱き締めると彼女…

だいすき

「ディーノ、だいすき」 そう言ってくれる笑顔が好きだ。「キスして」 だから、時折彼女にそう言わせてしまうのが悲しい。横になっていたところに控えめに覆いかぶさってくる全身は、どうひいき目に見ても緊張していた。「ごめんな、背伸びさせて。辛いだろ…

デート

 部下のひとたち、ツナたちからのお菓子がテーブルへ丁寧にまとめてある。その向こうからきらきらとした視線を向けるディーノはしばし黙って――そして早足で迫ってきた。その勢いのまま両腕で抱き上げられて、まるで小さな子扱い。「うわ、うわー、どうした…