RE!ワンライ:ディーノ

バレンタイン

  日本では、女性が男性にチョコレートを渡して愛情を伝える日だという。当初チョコレートをプレゼントする予定だったのを急きょ変更したのはそういうことだ。今日いちばん、誰のものよりも心に刻まれるものを贈りたかったから。「きれい」 目を…

おめかし

  お母さんの紺のハイヒールは少しだけ大きくて、靴下を履いてもかかとが余る。それを承知でいざ歩き出そうとすると右がすっぽ抜けてしまった。こんな無謀なことができるのは、支えてくれると言ってくれたディーノが正面にいるから。「おっと。ち…

メール

  ディーノがホテルに持ち込むパソコンは、小さいけれど少しだけ重くて、ときどき彼の膝に収まっている。一度仕事中の部屋にいたことがあるけれど、偶然サウンドをオンにしていたらしいその日はすごかった。 着信音らしきものが数分おきに鳴り、…

  自信ありげにヘアピンを構えていた手が降ろされる。困って首を傾げ、彼女は体を離すと元の椅子に収まった。それまで眠気を誘うように穏やかな手つきで髪をすいてくれていた指も、そちらへ。 ことの発端はその背にあるテーブルの、そのまた上に…

ホワイトデー

  ラスクマカロンマドレーヌバームクーヘンキャラメル。ここからうかがえるだけでもたくさんの種類があった。個包装越しの小粒のきらきらがまぶしくて、嬉しくて、テーブルの向こうの笑顔を見上げると細められた目が溶けそうになる。「宝石箱みた…

誤魔化す

「先生、脱いで」 校舎の中で聞いてはいけないことばだった。それも彼女の声では。「待て、落ち着け、考え直してくれ」 思わず後ずさると、ぞんざいに放ってあったパイプ椅子にぶつかってけたたましい音を立てた。勢いあまって眼鏡がずれる。 マーカー片手…

眩しい

並んで歩く足が止まり、彼女の視線は信号から足元へと落とされた。白い肌に靴のストラップがよく映える。「ディーノの靴ってすごく大きいね。なんで?」「よく食べてよく遊んでよく寝たからだ」「ほんと?」右足のかかとを寄せて見比べやすくしてみると、もと…

うたた寝

 干したてのタオルケットをすぐそこに広げておいたのは、畳んでベッドに持っていくのが面倒だったから。あと、寝転がるとふわふわの感覚が触れて気持ちいいから……タイルカーペットがすぐ下にあるから少し硬いけど。 その硬さをものともしない先客は気持ち…

風邪

「オレだってナイフのひとつやふたつ握ったことくらいあるんだ」 そう言っていたのは過去の話。今のディーノは鬼気迫る緊張感を背負って両手を構えていた。 片手に果物ナイフ。 片手にりんご。「お前の言ってた……えーっと」「うさぎさん……」「そうそう…

 ベッドから見上げる、大きな手。 開かれたふたつの手のひらは迷うことなくわたしの頬を同時に包んだ。 そうして聞こえる、深い深いため息。「……生き返る……」「そんな大げさなー」「ほんとだぞ。お前のここには世界中の幸せの三割が詰まってるんだ」 …

結ぶ

 右手、左手。ディーノの視線が忙しく行き来するのが楽しい、と思える段階はとうに過ぎてしまった。いっそ申し訳ない。「あれ? ぐるっとするのってどっちだっけ?」「右だな……ああいや、右手だけどその回し方じゃなくて」 わたしの胸元でネクタイが歪な…

抱きしめる

 「狭い」 自分の寝床ではないから当たり前なのだが。ちなみにつま先は余裕を持ってはみ出している。「具体的には寝返りが打てない」 再三の救助要請は黙殺され。「はい、この子も」 腹の上に体長十五センチほどのシャチが追加された。控えめな…