RE!ワンライ:ディーノ

見つめ合う

 「トリックオアトリートお菓子ちょうだいディーノ!」「んーどんな行事なのかどうでもよくなるくらい可愛い」 とんがり帽子の小さな魔女が張り切って差し出す手は、胸のあたりまでしか届かない。こんな、ふとしたことで互いの何もかも…

安心

 顔がいかつい。図体がでかい。とにかく全部だめ。 諸々の理由でファミリーの面々が子どもに泣かれるのを何度も見てきた。その度に仕方ないと笑う側だった立場は、今日をもって終わりを告げた。 他ならぬ彼女の手で。「どうしたんだ……?」 玄関のドアを…

香水

 その返答を飲み込むことは容易ではなかった。ブレて明後日の方向を狙うアトマイザーを後ろから支えて直してやりながら、今しがた示された部位に視線を落としてしまう。 白い肌に、ふわふわとしたシュシュで丁寧にまとめた髪の束がゆったりと下りる綺麗な項…

コーヒー

八時間。それはたった今空になったボトルに、再びコーヒーができるまでの時間だという。「だからあんなに美味いのか。いつも長い時間をかけてたんだな」「でも、道具を揃えなくていい分楽だよ。フィルターとか、あのハンドルをがりがり回すやつ……」「多分、…

檸檬

ミルクだシロップだ、究極的にはオプションなしだという論争が鎮まったのは、にこやかなウェイトレスがこのテーブルを去ってからだった。残される、注文通りのアイスティーふたつ。そして唯一ついてきたのは、グラスに挟まる輪切りのレモン。「どうして……」…

リップクリーム

薬局の棚にぶら下がっていないし、三つセットで売られたりしない。そんなものを初めて見たし、触った。「大人っぽい!」力の抜けた感想しか出ないわたしとは反対に、ディーノはにこにこと笑って頷いている。従姉たちが使うような、きらきらとした金属みたいな…

嫌い

 綺麗な爪の先が示すのが、雑然とした棚の中というのが酷いミスマッチ。そんな感想とは対照的に、ディーノの問う声は楽しげに弾んだ。なじみのないものに心を躍らせて、わたしとガラス戸の先を交互に振り返りながら。「これは?」「シミュレーション。ロボッ…

電話

 客室電話が立て続けに二度鳴らされた。ということはかけ間違いではないようで。わたししかいない時間に急ぎの用事だなんて運が悪い――と見知らぬ誰かの不幸を思う前に受話器を取った。当事者ではないけれど伝言くらいできるだろう、そんな心持ちで耳に寄せ…

添い寝

正確に測ったことはなくても、とんでもない身長差だというのははっきりと理解させられている。だから目の前で苦しげに唸るうつ伏せ、そのつま先が堂々とベッドからはみ出るのは想定内だった。わたしは毎晩快適に眠っているのに。「何でだ……? どうしてここ…

ひとくち

 たこ焼き器を見るやいなやソースを持ってきた期待は外れ、それでもディーノの目がきらきらとするのは変わらなかった。温かい鉄板の上で丸い塊がころりと転がるのを見る目も可愛らしく丸くなる。そうっとお箸で摘んで皿に並べる間に香るのは、海産物ではなく…

第一印象

  何十も署名をし続けていた、そのうちの一枚が窓からの風に攫われて部屋中を舞った。降りてきたところを摘むと、青インクの濃く苦い芳香が後からついてくる。 香り。連想するのはさっき家へ送っていったばかりの彼女のことだった。最後に目に留めたのはま…

プレゼント

 きらびやかなシャンデリアの下のフルコース。ケチャップで可愛い絵を描いたこんもりオムライス。どちらを前にしても、ディーノはあのきらきらした笑顔で喜んでくれる気がする。とはいえ、渡したいのはどちらかと聞かれたら当然前者で。 結論として、無理な…