海風は昨日よりさらに激しさを増していて、これ以上ない好条件。機器のテストについては。
Nジャマーのおかげでもともと電波状況は最悪。だからこそ艦に乗せて前線かつ海上へ運び出す中継装置は貴重な生命線だった。荒波強風に負けない強度は通信にも固定具にも求められる。
何日かぶりに晴れてよかった。こうして甲板で心置きなく通信テストの準備ができる――けれど、自分自身の準備はてんで忘れていた。
寒い。
かといって防寒具を取りにロッカーへ戻るのも面倒……いや時間がなかった。開始時刻はテストチーム全員の都合をすり合わせてようやく決めたもの。
***
という顛末を聞いてもなお出てくる感想はひとつ。舌打ちは無限に出てくる気もするが。
「追い剥ぎじゃん」
「お願いー」
いいアイデアだ、と言わんばかりの晴れやかな表情は憎たらしいがここが寒いかと聞かれたら答えは否。しぶしぶゆっくりもったいつけて軍服を脱ぎ、その頭にぽいとかぶせてやった。こうもあっさりくるまるのだからサイズは問題ないだろう。正直、周りの人間に怪しまれる見た目になったと思うが指摘しないでおく。姑息な手段を取ってこの部屋に来るのが悪い。
「貸しひとつな。今度シアの」
軍服は別にいらないと思い直し。
「隠し持ってるブツよこせよ」
「はぁい。これありがとねシャニ、すぐ返すからね」
交渉もそこそこにシアは大急ぎで甲板に戻っていった。余ってひらひらする袖を律儀に折り曲げつつ。よくよく見たら裾だってちょっとしたコートのように長く背を覆っていた。彼女はあんなに小さかったか。
ちなみにブツとはこそこそ、そこそこの量を持ち込んでいる菓子類のこと。知っている者はごくごく限られている、なぜならシアの(軍規違反にはならない程度の)ないしょの話だから――そこまで考えていたところでふと「ないしょ」を知るうちのふたりがガタガタと落ち着かないことに気づいた。振り向いて見れば、彼らは腹立たしげにこちらと出口を見比べては立って座って視覚的にうるさい。
何を言いたいのかは、その顔をながめていればとてもよくわかる。シアは部屋の全員に声をかけ、しかし最終的にはひとりだけに頼みごとをした。
***
あのあとシアは職人の親父連中に「横着するな」と説教されたらしい。こんな雷はまだまだ軽い方だ。お堅いエリートどもに目をつけられなかっただけマシな方。
堅いといえば。
「なんだ、お前たちも補給か? 何を申請する?」
「新しい軍服。普通の」
白衣たちはふたりが言い出すのに驚いてざわつき。
「……とは思ったけどよ、アリーシアのタイムアタックに使われるだけなら癪だな。やっぱなし、取り消し」
「僕はチョコがいいでーす。たくさん入ってるやつ」
やっぱりいつも通りだなとすぐに落ち着いた。
つまり、シアをひらひらにできるのは後にも先にも俺だけになって。シアのおやつタイムとやらに侵入するのは相変わらず三人のまま、うるさいままだけど。
ランダム単語ガチャ No.5935「欠陥品」
