赤、白、黄色。チューリップじゃない。そんな色とりどりのまばゆい光がちらついて、目が灼けるようで。本来色鮮やかなはずの画面は、日に当たりすぎた紙のような、セピアに似た鈍いものに変質していく。
まるでキネオラマだ。本当はそんなことないのに、光の線が点滅してちかちかと目に焼きついて、重なって沈んでいく。
右から爆発音、左から大きな雄叫び。同時に、大口を開けた甲殻類みたいな怪獣がスクリーンに現れて、ちょっとびっくりする。
(バレてないかな)
会場を揺るがすほどの音響とはいえ、ノミの心臓が露見したら恥ずかしい。そうっと、隣で微動だにせず座っている裕太くんの様子をうかがった。
(……)
ぎゅっとした握り拳、少しだけ開いた唇。何より、じいっと怪獣とヒーローのバトルを見つめる目がきらきら輝いていた。
***
「ほんっと、サイコーッすね!」
「うんうん、大迫力だった!」
「そういや鞠花さん、ラスボスのとこでビビってませんでした?」
「そんなことないもん」
「どーかなー?」
上映が終わって売店まで歩きながら、裕太くんは跳ねるように落ち着かない。ビビってたし、大迫力のシーンで裕太くんのこと見てたんだよ、なんて見抜かれなくてよかった。
(可愛いなあ)
正直に言ったら怒られるから内緒。実際この前「俺は男だから! そういうのは俺から鞠花さんに言うもんだから!」ってお説教された。男の子は難しい。
「あとあと、あの最後の名乗りのとこ!」
「「そこまでだ! 正義のパワーを見せてやる!」」
「そこ! やっぱりブルーはカッコいいよねぇ」
「レッドだってカッコよかったッす」
反論を続けかけた裕太くんは、前方の何かに目を留めて「あーっ」と声を上げる。
「どうしたの?」
「あれ、劇場限定のキーホルダー! 早く見に行きましょう!」
振り返る裕太くん。その表情は、やっぱりきらきら光って見える。セピアなんかじゃない、映画館の暗がりに紛れない素敵な笑顔。
「ね」
一瞬見入ってしまったわたしに焦れたように、裕太くんはわたしの手を掬うように握るとくいと引っ張る。
「わ、わ、待ってよ」
少し温かくて、大きな手。危なげなく引き寄せられながら、裕太くんが売店に走っていかないのに気づく。
「裕太くん?」
「やっぱりさ」
さっきより近くなったせいで、見上げる裕太くんの表情がよくわかる。少しだけ目をそらして、心なしか頬を赤くして。これは映画終わりのテンションのせいじゃない、ような気がした。
「鞠花さん、ホントはびっくりしてただろ」
「えっ」
「肩が跳ねたの、ちょっと見えたから」
バレてたなら意地張らずに言えばよかった! 一気に熱を持ったわたしの頬は、
「可愛かった」
――もっともっと熱くなった。
「ぁ……」
「あ、バカにしたわけじゃ」
「わかってるもん」
どうしてもそれをごまかしたくて、今度はわたしが裕太くんをぐいぐい引っ張る。「抜ける、引っこ抜ける!」なんて聞こえた気がしたけど、これは反撃なので仕方ない。
可愛い、だなんて。そのことばがあんなに嬉しくて、衝撃的だなんて。
裕太くんの気持ちが少しわかった気がした。
