春から夏にかけての生温い空気の中で、夢現のまま目を閉じている。
幸村くんといっしょに、一年生の練習を見ている最中だったのに。
「今なら大丈夫、後で起こすから」
走り込みに行ってしまった一群を背にそう微笑まれると、あの眠気はどうしてもこらえられなくて。見た目よりずっと頼りがいのある肩に寄りかかったまま目を覚ませずにいる。
まだ声変わりの済んでいない、高い音が混じるかけ声が遠い。まぶたを開けても、きっとそれは変わらない。
真昼の日差しが、ベンチの真上に茂る葉に遮られて斑になる。水玉になる光を閉じた目で感じながら、わたしが持ってきた水筒はどこにやったっけ、そうだ幸村くんの鞄の近くに置いたんだ、なんて自問自答をのろのろと終わらせる。
幸村くんのはといえば、スポーツドリンクと、飲みかけの炭酸ジュース。丸みのあるボトルの中でしゅわしゅわとした泡がたくさんできていた。
「分けてあげようか」
そんな、せっかくの申し出は断った。泡が舌に沁みるようなあの感覚はどうしても苦手だ。幸村くんの好きなものなら、わたしだっておいしく飲めるようになりたい。大人になったら、味覚はかわってくれるかも。
深くなるはずの眠りは、深くなる思考に反比例する。それと同時に、さらさらとした葉擦れの音、微かに身じろいだ幸村くんの体。
突然、わたしの唇で弾けた甘い泡。
「ん」
うとうとした微睡みから覚めるのに、それらは十分な刺激で。
ぱっ、と、目を開いた。フェンス越しに、ペースを崩さない一年生のランニングが続いている。傍らを見上げると、らしくもなく目を瞠った幸村くんの表情に見下されていた。
「あ……御巫さん」
ゆったりと綻ぶ口元は、驚きをごまかすように見えた。
「起きた?」
「うん」
「今、声をかけようとしたんだ。丁度よかったね」
「走り込み、あと何周?」
「二。もうすぐだ」
そちらに向き直った幸村くんをよそに、右の薬指でそうっと唇をたどってみる。何もない。何も変わったところはない。
指先を追いかける視線は、いつの間にか横目を向けた幸村くんのものだ。
「ねぇ、幸村くん?」
なぜだか、確信があった。何が起きたのか。
少しだけ、身を乗り出してみる。いつも堂々とした態度の彼はどこへやら、無言で見つめ返してくれる目は瞬きを忘れていた。
「わたし、炭酸って飲めないんだ」
